彼に違和感はたくさんあったけど、ずっと気付かないフリをしていた

私にとって、夜というのはどうにも物悲しい気持ちになる時間であり、それは色々な過去を振り返るからなのだと理解している。
自室のベッドで一人、体育座りをしながら酒を飲み、思い出す。
私が私なのだと気づいたあの夜のこと。
まだ根雪にならない12月上旬の北海道。
それでも大きな粒の雪は降っていたし、久々の地元は冬らしく私を迎えてくれていた。
卒論も提出し、大学生活最後の冬として帰省した。
いや、ただの帰省ではない。
幼馴染との関係性を進展させるための帰省だ。
その年の夏、私はずっと仲の良かった幼馴染と関係を持った。
それは今までの何もかも失うことを覚悟していたし、家族ぐるみで仲が良かったので「そうなるだろう」という感覚だった。
身の丈より少し高い宿を取り、お酒を嗜み、お互いのことを再度認識した。
「私はこの人を好きだ」と思いたかった。
でも、何かが違かった。
TwitterのパクツイはそのままRTするし、お風呂にはそのままスマホを持っていける。
ブランド物が好きだし、友達も陽キャ。
私の心には絶対に引っかかっていたのだ。
「この人と思い込みたいだけでしょう」と。
幼馴染だから今までの色んなことを知っていた。でも、知らないことが多すぎた。
私と幼馴染は、決定的に何かが違った。
それを気づいていたのに、私は「付き合ってほしい」と告げた。
暖房をつけているのに、手と唇が冷えているのがわかった。
「俺にはあなたを幸せにできない」
暗闇の中で幼馴染がそう言った。
私は覚悟を持っていたのに、それは私だけだった。
その言葉は、完全に私たちの行く道が交わらないことを表した。
一瞬で何もかも閉ざされた気持ちになった。
今までの時間は何だったのか。
私は何のために?
心がぐちゃぐちゃになったとき、本当の心は現れる。
「あなたに幸せにしてほしいわけじゃない。私は自分で幸せになる。その隣にいてほしい」
あぁ、これが私の本心なのだと思った。
いつもは頭で思い浮かぶ言葉を話しているのに、このときだけは言葉が先に出た。
幼馴染は少し引いた目で「それじゃあ、俺は必要ないよね?」と溢した。
私は間違えたのだ。
これが私の正解なのだと思い込みたかっただけだった。
違和感はたくさんあったのに、それに気づかないフリをしていた。
それでは幸せにはなれないし、自分のためにならないとわかっていたのだ。
大失恋から数ヶ月後。
冬がまだ残りつつ、暖かな春の陽気を纏っている中で、私は今のパートナーと出会った。
最初から話が合って、何の違和感もなかった。
何もかも怖いくらいだった。
それでもこの人しかいないと思った。
今度こそ、そう思いたかったのかもしれない。
そんなトラウマだらけの私を目の前に、パートナーは言った。
「俺は、あなたの生きていく道を隣で見守ってるよ」
私が人生の中で一番求めていて、欲していた言葉だった。
誰かに幸せにしてほしいわけじゃない。
私は自分で人生を切り開いて、自分で幸せになる。
そんな私を支えて、帰る場所でいてくれる人を求めていたのだ。
このことに気づけたのは、あの夜があったから。
泣いて後悔して、全てが間違いだったと思ったけど、そうじゃなかった。
正しい間違いも必要だったのだ。
私は、私らしく生きていける場所と出会えた。
夜はもう寂しくない。
泣いていても、心は一人ではないから。
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