私がこの服に出会ったのは、ショッピングモールの中のなんとなく入ったお店だった。私の年齢で着るには少し若く、派手な洋服がたくさん並んでいた。

その中の一着に私は「一目惚れ」をした。試着をして、すぐに買うことを決めた。
胸の少し上で、素材が切り換えられている半袖のカットソー。値段は2000円くらい。手持ちのジーンズにもワイドパンツにも合わせやすいものだった。
しかし、私がこの服に一目惚れした理由は、「合わせやすさ」ではなかった。

子育てに少し悩んでいたとき、「授乳のしやすさ」で一目ぼれした服

この春、子どもが生まれた。ずっと望んでいた子どもだった。
生まれる前からお世話が楽しみだった。しかし、思っていたよりもお世話は大変だった。
特に授乳は辛かった。母乳で育てたいと思っていたため、授乳は私にしかできないお世話だった。吸われるたびに痛いし、2~3時間おきに授乳しなければならず、正直めんどうくさいと思ってしまうこともあった。

それでも念願の子どもだったからがんばった。授乳の時は洋服を下からまくり上げ、子どもの顔にかからないようにしなければならない。同時に子どもの体を支えなければならない。
そうなると、着る服は授乳がしやすいTシャツになっていく。生まれる前に着ていたワンピースなどは着なくなり、私の格好はだんだんと適当になっていった。

世の中にはきれいにして、育児も楽しんで、ちゃんとしているママもいるのに、私はちっともちゃんとしていない。「せっかく子どもができたのに、お世話が面倒なんて私はひどいママなのかな」と思っていた。
そんな時に、この服に出会った。私がこの服に一目惚れした理由は「授乳のしやすさ」だった。

一目ぼれした服のおかげで、ちゃんとしたママになれた気がした

それ以来、この服を着続けた。少し遠くへ出かける時も、近所の買い物の時でも、子どもと一緒にいる時はほとんどこの服だった。そして、この服を着て授乳し、抱っこする。よだれなどで汚れても気にしなかった。「一目惚れ」した服だったのに。

そのうち、お世話にも慣れて余裕が出てきた。この子の顔や、授乳の様子を見ることができるようになった。「がんばって飲んでいるなあ。まつ毛が伸びたな。かわいいなあ。たくさん飲んで大きくなってね」と思うようになってきた。

秋になり離乳食が始まって、いつか授乳が終わることを考えた。
この子が成長することはうれしいが、同時に少しさみしい。あんなに苦痛で面倒だった授乳が終わることが、こんなにもさみしいと思えるのは「一目惚れした授乳しやすい服」のおかげだ。この服を着てお世話しているうちに、育児を楽しんでいるちゃんとしたママになれた気がした。

いつかクローゼットにしまわれる服。その時まで、思い出を作ろう

この服はいつか、クローゼットの奥にしまわれ、着なくなるだろう。授乳を気にせずまたワンピースや私の本当に好きな服が着られる日が来るかもしれない。

でも、この服にはよだれ汚れと、この子と私だけの授乳の思い出がある。いつかこの子が大きくなった時に、この服を見れば、「この服を着てたくさん授乳したなあ。かわいかったなあ。楽しかったなあ」と思い出せるだろう。この服のおかげでちゃんとしたママになれたと自信が持てた時を思い出せるだろう。

その時までは、たくさんこの服を着て、この子とたくさんの思い出を作っていきたい。