あの夜があったから、私は知ることができた。家族の秘密を。長女の秘密を……。
誰もが私を通して「そっくりな長女」を思い出すことが悔しかった
私には2人の姉と、兄が1人いる。4人兄弟の末っ子として、ある家族に在籍している。
私は両親が年老いてから生まれた子供で、私が生まれた時、長女はちょうど20歳。成長とともに、私は家族、親族、ご近所からも長女にそっくりだと言われて育った。
長女と次女2人とも高校卒業とともに進学のために田舎の実家を出ていったため、一緒に暮らした記憶はなく、離れて暮らしていても、誰もが私を通して長女を思い出す。
私という個性を、20年前に生まれた女が先取りしていたことが悔しかった。私は長女のことが苦手だった。
長女もそのことを感じていたようだったし、長女も私に嫌われていることを先刻承知していたし、私も長女が先刻承知していたことを承知していた。とにかくお互い、似ているもの同士、ぶつからないように息を合わせながら生きていた。
長女が結婚したのは、私が3歳か4歳の時。私は長女の結婚式で、リングガールをつとめた。そして、ブーケトスでなぜか私はブーケをゲットしてしまい、会場は爆笑していた。
母の鏡台から見つけた手紙には「家庭の秘密」が書かれていた
それから10年後のある夜の晩。偶然、母の鏡台からあの日の手紙がでてきたのだ。時刻は零時を回っており、私はにわかに興奮しながら手紙を開いた。
「お母さん、今まで私の本物のお母さんになってくれてありがとう」。冒頭から私は衝撃を受けた。
そして、私はある秘密を知ることになる。長女の母は、長女を生んですぐに亡くなった。母は父の再婚相手で、母は初婚だった。
その後母は長女を実の娘のように育てながら、次女を生み、その4年後に兄を。そして8年後に私を。思いがけず、私は家庭の歴史の秘部に触れてしまった。
軽率な行動を恥じた。長女をからかえるかもと興味本位で開いた手紙。長女の生い立ち。母と父の秘密。
私は抱えきれない秘密の重みに涙が止まらなかった。私たちは、なにもかもがそっくりだった。「似ているね」。そう言われる度に個性を潰されたように悔しくて、長女を嫌うことで新しい個性をつくりあげてきた。
私と長女は「1/2だけの姉妹」。これからもずっと姉妹なのだ
私は秘密を抱えきれずに、母に正直に手紙を見たことを打ち明けた。「貴方が姉さんを苦手に思っていることは知っているよ。似ていると言われるのも嫌なこともね」お母さんはそれが嬉しかった。とても貴方たちは『半分こ』には見えないし、貴方が私と姉さんを繋いでくれる鎖なのよ」。母は懐かしむように、愛しむように私を見ていた。
あの日の夜が明けて10年分の朝がきて、私は20歳を、長女は40歳を迎えた。私は18歳で田舎を出て、関東へ。姉は2回ほど離婚し、波乱万丈な人生を歩んでるわりに今は幸せそうだ。
今は市内に家族と住み、実家も近いので頻繁に出没してるらしい。なにかと波乱の多い人生なので、いっそ近くにいてくれた方が親としては安心らしい。
最近ようやく私は長女のLINEを追加し、最近長女がはじめたばかりだというSNSアカウントを仕方なくフォローしてあげた。相変わらず見た目も気持ちも若者な長女である。
相変わらず顔のベースはそっくりだが、メイクや髪型でずいぶん変わってしまい、今ではもう誰からも「似ている」と言われなくなってしまった。それを今ではほんの少し、指先の爪の垢ほどだけ寂しく思う。
私たちは1/2だけ姉妹。それでも姉妹なのだ。これまでもこれからも。