私たちは所謂、同業他社の同期。同じ感覚を持つ違うコミュニティの人。
社会人になって丁寧に作ってきた、貴重な友人だ。
仕事柄、遅くなりがちな私たちの集合時間は大抵、日付が変わる頃。ギリギリ空いてる居酒屋に駆け込んだり、公園で缶チューハイ片手に歩き続けたり……。
ぐちゃぐちゃ考える私に、あなたはぴったりな言葉をくれる人だった
私たちの会話は、時に哲学的で、政治的で、恋愛から社会問題まで幅広く、私が8割、君が2割の発語量で、時に恥ずかしくなるくらい難しい話をした。
私よりずっとずっと頭が良くて、ぐちゃぐちゃ考える私にぴったりな言葉を選んでくれる人だった。君と一緒にいる私は、水を得た魚のように自由だった。そんな時間が大好きだった。
それなりに男友達もいて、それなりの恋愛もしてきた。愛嬌だけが取り柄で、万人受けするコミュ力は身につけてきた。だから余計に、私の頭の中を見せられる君の存在は特別だった。
春と梅雨のあいだの夜、一緒に友達の家から帰りながら、私は生きるのが下手かもしれないって話した。そしたら、「俺の人生は、俺しか生きれない。俺が1番、俺の人生歩むの上手いと思ってる」って初めて、君の人生そのものの価値観に触れた。あなたをもっと知りたいと思った。でも、一線を越えたあの夜、私たちの関係はどこにでもあるどうしようもない男女の仲になってしまった。
いつも通り考えて辿り着いた。「あなたのことが好き」と伝えると…
最初に愛情を示したあなたを飲み込めなくて、考えてしまった私が悪かったの。恋仲になるって、そこにある選択肢は、いつか永久的にあなたを失う時が来るか、一生添い遂げるかの二択でしょう?なにより、男友達であることに尊さを感じてたの。
いつも通りぐちゃぐちゃ考えて、たどり着いた。一緒に何度も朝ごはんを食べて、あなたを知れば知るほど、嫌なところもみえてきて、それでも会いたいと思うのはあなたで、私が誠実でいたい相手はあなたで、失いたくない相手はあなただった。
あなたのことが好きなんだって。曖昧な関係を続けながら答えを見つけた私に、貴方は、他の子ができたと。タイミングが悪かったと。
あーあ。そのパターンね。男の好きなんてそんなもん。夜22時以降の好きなんて信じちゃいけなかったんだ。あの目は本物だって思ったのに、結局、性欲なのね。貴方が特別だと思った私が悪かったわ。
なんて、割り切れなかった。話せばわかると思った。いっぱいいっぱい、考えたことを、気持ちを言葉にした。
私が8割、貴方が2割の発語量で。
いつも通り、私はぐちゃぐちゃ。でも、貴方もぐちゃぐちゃ。
「好きってなに?その子のことは好きなの?疲れるデートって楽しいの?彼女を選ぶことを"正しい"って思い込んでいるだけなんじゃない?」
「好きかはわからない。でも、丁寧に関係を築きたいと思ってる。俺だって傷ついた。君のことは重しになるんだと思う」
言葉を大事にした私たちは、関係に甘んじて、言葉に苦しめられた
貴方をもっと知りたかった。貴方なら他の人とは違う言葉を紡いでくれるんだと思った。貴方に格好悪いほどすがりついた。
丁寧な関係を築いてきた私たちはいつのまにか、気を遣わない関係に甘んじていて、私も貴方も選ぶ言葉は鋭く尖ってた。話せば話すほど、素直な言葉と気持ちを忘れていった。言葉を大事にした私たちは言葉で苦しんだ。
そんな君についに彼女ができた。
今度は、ただの友達の仮面をかぶって、精一杯の愛嬌を振りまいて、おめでとうって言ってあげる。
そこからどうするかは君次第なのが、涙が出ちゃう。もっともっと丁寧に、私とただの友達をやり直す覚悟が君にはあるの?
ねぇ、あの夜があったから、私達の関係は特別なんだって、お互い偉くなって、今よりちょっといいお店で笑おうよ。
こんな、どこにでもある色恋沙汰で終わらせないでよ。
そのためにはきっと、君は8割、私は2割のコミュニケーションにするの。発語量も頭の中を見せるのも。