あの夜があったから、私は彼のことを一生忘れることができないだろう。

Twitterが、ずっと近くにいた特別な存在に気付かせてくれた

彼は変わったものが大好きな人だった。
山田という何の変哲もない生まれ持った苗字を嫌い、自分のことを★と名乗っていた。大学の軽音楽サークルに入りたての頃、私は派手で目立つ先輩とばかりつるんでいて、ミステリアスでおとなしかった★とは全く関わりを持っていなかった。
ただ、Twitterでサークルのメンバーっぽい人を片端からフォローしていく中に★はいた。それだけだった。一年生の秋頃から、★がよく私のツイートに反応を示すようになってきて、それがきっかけで私は、彼が出演するライブをよく見に行くようになった。

★はとてもドラムが上手くて、クールだけど人望のある人だった。
ある日の飲み会で、★は、Twitterの裏垢を私に教えてくれた。フォロワーは10人程度だったが、後輩でフォローしているのは私一人だった。
特別扱いされているような気がして、それがとても誇らしくて、これからもTwitterがんばろう、と謎の意欲が芽生えたのを今でも覚えている。

だんだん恋心に変わっていく気持ちに、気づかないフリをした

それからというもの、ライブでは後ろの方で演奏も見ずに二人で遊んでいたり、飲み会では抜け出して一緒にコンビニのアイスを買いに行ったりしていた。
サークル内で「二人は付き合ってるの?」なんて噂も流れたりしたが、当時私には六つ年上の彼氏がいた。その彼氏はバイト先の先輩で、とても器が大きく、私が何しても、かわいいね、と言ってくれる優しい人だった。
その彼氏を裏切りたくなくて、私はだんだん恋心に変わっていく★への気持ちに気づかないフリをしていた。

二年生の夏、私の心に劇薬を投じたのはサークルの合宿での出来事だった。私たちのサークルには、夜はライブ会場で音楽をガンガンにかけながらお酒を飲むという治安の悪い恒例行事があった。
時間が経つにつれお酒を飲むスピードも速くなり、私は一緒に飲んでいた同期の元を離れて、隅の方で、一人で飲んでいた★の膝にどしんと座った。
★は当たり前のように私を後ろから片手で抱きかかえ、もう一方の手で酒を飲み続けた。大勢の中で、二人だけの世界で飲んでいることに満足感を覚えていた。

キスもしたことないのに、特別な関係になれた気がした

きっとこの頃私は、彼氏がいるのに、★に対する独占欲を強く持ちすぎてしまっていたのだろう。飲み会が終わった後、私たちは余ったお酒を勝手に持ち出して、二人でこっそりテラスに向かった。
そこには長椅子が二つ置いてあったが、私は★が横たわった椅子の隙間に無理やり体をねじ込んで、密着するような形で寝そべった。
★は空を見上げていた。私もつられて空を見ると、飲み込まれそうなほど真っ黒な空に無数の星が散りばめられていた。

私は酔っぱらって視界がぼやけていたので、もしかしたら実際よりも多く星が浮かんでいるように錯覚していたかもしれない。だから最初に流れ星を見たときも幻なんじゃないかと思った。
でも★は、同じ流れ星をちゃんと見ていた。
ロマンチックな気分に酔いしれて、少し大胆に、欲深くなった私は、★の口に指を近づけた。★は私の指をそっと口に含み、舌で優しく触れた。
人生で、こんなに心臓が波打ったのは初めてだった。私たちだけが知っている空、流れ星だけが知っている私たち、まだキスもしたことないのに、私は★と特別な関係になれた気がした。

愛し合っているはずなのに、芽生えた不安を払拭できなかった

合宿から帰ってきて、私はずっと★のことを考えていた。あの夜の流れ星を、何度も何度も思い出していた。

とうとう自分の気持ちにごまかしがつかなくなった私は、彼氏と別れて★に想いを伝えた。★は一瞬戸惑いを見せたが、私の想いを受け止めてくれた。

告白した時に見せた戸惑いが、幼馴染に対する未練だったということは、後日、★が日記をつけていることを知り、興味本位で盗み読んでしまったことがきっかけで知ることになる。
★に夢中になりすぎて、幼馴染の存在なんて気づかないほどに周りが見えなくなっていた私は、心臓が浮かび上がるほどのショックを覚えた。

日記を盗み読んでしまったことを正直に伝えると、★は「今は君が一番好きだよ」と何度も言ってくれたが、一度芽生えた不安を払拭できることは二度となく、私たちは愛し合っていたはずなのに別れる決断をした。
実際よりもすごく長い人生の中で、深い恋をしたような気がする。

私はあの夜を、深い恋の渦に飲み込まれたあの夜を、今でも思い出す。