私と姉がまだ小学生だったころの話だ。
ある日、母が私たち姉妹のために、2着の夏用のネグリジェを買ってきた。その子ども用の小さなネグリジェは、本当に可愛らしくて、それを見た瞬間、私と姉は有頂天になって叫び声を上げた。その様子を見る母も嬉しそうだったのを覚えている。

お姫様への憧れから、ネグリジェはキラキラ輝いて見えた

ノースリーブで丈が長く、襟ぐりに小さなリボン、裾にレースが施されていて、真っ白で無地の生地は、お姫様に憧れる小学生の女の子にとってキラキラ輝いて見えた。
その可愛いネグリジェに、すっかり興奮した私と姉は、その場で服を脱ぎ捨てて、競うように大急ぎでネグリジェに着替えた。姉と何度も鏡の前に立った。
新しいネグリジェはひんやりとした肌触り。お姫様になりきって良い気分でくるくる踊ると、テロテロの柔らかい生地が広がるのを何度も楽しんだ。

なにせお姫様だから、布団への入り方もおしとやかだ。白雪姫のように胸の上で手を組んで、ネグリジェに皺がつかないように慎重に掛け布団をかける。
いつも朝に目が覚めると枕に足が乗っかっているような酷い寝相だが、今日は寝返り一つ打たないと心に誓った。

私も姉も寝ていられず。たくし上げるとお腹は湿疹で真っ赤だった

だけど私も姉も、ネグリジェで朝を迎えることは出来なかった。布団に入ってしばらくして、お腹が痒いことに気が付いた。無視しようとしたが、痒みはどんどん酷くなって寝ていられなくなった。
たまらず布団から飛び出すと、隣で寝ていたはずの姉も、同じように布団から出てお腹を掻きむしっていた。ネグリジェをたくし上げるとお腹は湿疹で真っ赤だった。

私と姉は皮膚が弱く、アトピー性皮膚炎でたびたび湿疹を出していた。汗をかいた時や疲れた時、犬を触った時や埃っぽい部屋で遊んだとき、湿疹の原因は分からない時も多かった。
だからネグリジェが悪いわけじゃない。でも湿疹の一因になっていることは明らかだった。
それでもネグリジェを脱ぎたがらず、半べそをかいている姉妹から、母は慌ててネグリジェをはぎ取って、裏地のタグのポリエステル100%の表示を見た。
奇麗だけど通気性に劣るポリエステル、これがいけなかったのかも知れないと、母は私たちに申し訳なさそうにした。

あのネグリジェを脱いだら、二度と着せてもらえなかった

今、母の立場になって考えると、ただ娘を喜ばせようと買ってきた服で、娘が湿疹を出し痒がっている様子を見るのは悲しかっただろうと思う。それにこの一件のあと、母は娘に着せる服の素材について慎重にならざるを得なくなった。

憎らしい湿疹のせいで、可愛いネグリジェを脱ぐ羽目になり、本当に悔しい夜だった。かかりつけ医からもらっているクリームを塗って、いつもの冴えないパジャマを着て眠った。
それから二度と、あのネグリジェは着せてもらえなかった。

幸運なことに、私と姉は成長するにつれアトピーは落ち着いた。今ではポリエステル生地の服も着ることができる。でも、もうあの小さなネグリジェには片足も通せないだろう。あぁ、思いだすと本当に悔しい、可愛くて憎らしいネグリジェだ。