「もう神様からのプレゼントとしか思えないんだよね」
興奮気味に、その日に起こった出来事を友人に話した。
当時大学4年生。
カフェでの就職を目指していた私が、一次面接と題した店舗見学を行っている最中、面接の合間の息抜きにコーヒーを飲みにきていた彼とばったり遭遇したのだ。
その彼というのが、今までで告白した回数3回のうち3回全てを捧げた、「私の青春」「人生最大の恋」そんなキーワードが全てぴったり当てはまってしまう人物なのだ。

彼はとても優しい人。基本的に誘いを断ることはなかった

時を遡ること高校3年生の春。
クラス替えをして隣の隣の席の男の子に一目惚れした私の「連絡先教えてください」という一言から始まった。

お互い受験を控えていることもあり、勉強が最優先ということは念頭にあったが、それでも邪魔にならない程度に連絡を取ってみたり、下足室でばったりあった日には、
「うわあ」
と、興奮を抑えきれないまま声に出してしまったこともある。
体育祭やイベントごとにドキドキしながら、
「写真撮ろうよ」
なんて声をかけて、その写真を印刷して不審者の様にニヤニヤしながら眺めていた。

彼はとても優しい人で、基本的に誘いを断ることはなかった。
一緒に駅まで帰ったり、一緒にテスト勉強をしたり、お願い事は大抵聞いてくれた。
けれどその優しさが逆に私を混乱させ、勢い余って告白してしまった夏の日も、
「ありがとう、でも今は勉強に集中したいから」
と、やんわり断った。

その後も優かった。「嫌いって言って」の希望にも応えてくれた

その後も変わらず彼は優しかった。
話しかければいつもニコニコ返してくれて、一緒に帰る日も徐々に増えた。
私本当に振られたのかな?なんて錯覚を起こして、クリスマス前に再度告白するも、またも玉砕。

受験も正念場を迎え、お互いが試験日に頑張ろうメールを送り合い、無事受験を終えたはいいが、こんな気持ちでは大学で彼氏を作れないと3度目の告白をするも、また振られてしまった。
おまけに、
「好きじゃないなら嫌いって言って」
と言った私の希望に応え、
「じゃあ嫌い」
とまで言ってくれる優しさだ。

まさかの再会。色んな感情が入り混じって、爆発しそうだった

そんなこんなで無事1年間の片思いに終止符を打ち、大学生活を満喫し、彼の存在がもはやネタと化した頃、突然私の目の前に現れたのだ。

初めは驚きすぎて声も出なかった。
ドラマの様に5秒ほど世界が止まってしまった。
そしてゆっくりと彼が微笑んで……あぁなんて美しい世界。

天にも舞い上がる様な気持ちで家に帰ると、その日の夜さらに驚くことに、彼からLINEが来たのだ。
「今日はびっくりしたね!久しぶりだったから言葉が出なかったよ」
これは夢なのか?

大好きだった彼とばったり遭遇して、おまけに向こうからメッセージが来るなんて。
高校時代はLINEがなくてメールをしていた世代だから、LINEをしているという事実にも時の流れを感じたし、ましてやそれがあれほど好きだった相手なのだと思うと色んな感情が入り混じって爆発しそうだった。

話しはとんとん拍子に進み、2週間後2人で飲みにいく事になった。
寒い冬に缶のココアを買って歩いていたのに、飲みにいくだなんて!
そんな場面にも再び時の流れを感じつつ、当日を迎えた。

彼はホテルを指差した。私の中で何かが壊れる音がした

彼は予想通りスマートで、お店の予約もエスコートも理想通りで益々好きになった。
お酒も入り、思い出話に花を咲かせたところで、23時を過ぎ、そろそろお開きという時間。
帰りたくないというのが正直なところであったし、これが別の男友達ともなれば朝まで飲んでいたかもしれない。
けれど相手はなんてったって大好きだった彼。
少し可愛い子ぶりたい気持ちと、軽い女だと思われたくないという思いから私は帰る以外の選択肢はなかった。

ところが彼はなんの躊躇もなく通りすがりのホテルを指差し、
「遅いし泊まってく?」
と言ったのだ。
ガラガラガラッと私の中で何かが壊れる音がした。

そうなのだ。
私が勝手に理想像を作り上げていただけで、彼もどこにでもいる大学生、どこにでもいるオトコなのだ。

これ以上美しい思い出を崩されたくなかった私は、
「ううん、今日は帰るね」
と言って、なんの迷いもなくその場を立ち去った。
なんだか振られてもないのに泣きたくなった。

美しい思い出は美しいままで。
大好きな人は大好きなままで。
憧れの人は永遠に憧れのままで。
そう感じた、なんだか切ない夜だった。