彼の放つ心ない「好き」の言葉が、私には大切に感じられて
私は2人の「彼」に感謝したい。その思いを込めてこのエッセイを書く。
最近はネット恋愛をする人も少なくない。私もその1人、ある配信アプリで知り合った年上の大学生と付き合った。今年の冬の出来事だ。
バンドが好きという共通点があった。
声が好きだったわけじゃない。見た目も好きじゃない。彼が女たらしなことも噂で聞いて分かっていた。いま思うと何が好きだったのかアホらしく思える。
ただ好きだった理由、それは「彼が私に『好き』と言ってくれたから」
人間って、自分に自信がなくても好意を寄せられると何故か幸せになれる。必要とされている、自分はこの人のために生きてもいいんじゃないか。そんな思いにまでさせる。
彼の解き放つ、心ない、水素みたいに軽い「好き」でさえ、当時の自尊心が欠如した私にとっては、大切な言葉だった。
初めて会った日の夜、お互いの好意を確認しつつ、2人だけの時間を楽しんだ。
いい雰囲気に酔って抱かれそうになった。それでも私は「付き合うまでは、やりたくない」と伝えた。
彼も言った。「そうだよね、ちゃんと付き合ってからにしようか」
嬉しかった。ちゃんと私のことを大切に思ってくれているんだと、自分に都合のいい解釈をした。
私は彼と真面目に付き合いたかった。
ある日、デートをした。一緒に海鮮丼を食べた。夕焼けを見た。手を繋いだ。写真を撮った。
その日、告白されて付き合った。
彼が好きで、送り続けたメッセージ。でも、いざ会ってみたら…
その後、会うことはなくなった。
ある日のことだった。夜9時に届いた「ごめん。もう付き合えない」という淡々と羅列された文字たち。
返信をしても既読はつかなかった。
あらゆるSNSをブロックされた。
その日私は深く傷ついた。
「あー、また棄てられた」。そんな被害者面をして一晩中泣いた。独りで泣いた。
直接会って話さず別れたことが未練へと繋がった私は、彼の事がずっと好きだった。
「会いたい、話したい」と送ったメッセージを何度も無視された。
心の整理をつけるためのメッセージを送った次の日、彼から「会おう。こんなに好きでいてくれたなんて知らなかった」という返信が届いた。
会った。会ってしまった。
もちろん当たり障りなく、たわいない話ばかり。
帰ろうとした時、私は後ろから抱きしめられ、復縁したい旨をやんわりと伝えられた。
私の気持ちを確かめたかったのだろう。
気持ちは戻らなかった。なんなら「気持ち悪い」とさえ思ってしまった。本能的に冷めていた。抱きしめられた時、はっきりと「もう好きじゃない」と確信した。
その日からもう連絡はとっていない。
その後、彼には新しい彼女ができた。
彼が注いだアルコールは、ただの水だった。気づかせてくれてありがとう
元彼の放つ「好き」は私にとって、アルコールと見せかけた水のような言葉だった。
その言葉に酔いしれていたあの幸せな夜も、振られたあの日の夜も、私の心のコップいっぱいに注いでくれたアルコールみたいな「好き」は別れた今、私にとってはただの水となった。
もしかしたら元からただの水だったのかもしれない。彼と別れなければ今頃、お互いに苦しんでいたに違いない。
気づかせてくれてありがとう。酔いを覚ましてくれてありがとう。
新しい彼氏さんがいる今、私は元彼に確実に胸を張って言えることがある。
可愛くなれた。強くなれた。と
きっと元彼のタイプの見た目ではなくなったし、恋愛に対する考えも価値観も変わった。
あの日、あの夜があったから、いま私は自分の好きな自分で生きていけている。
新しい彼氏さんにも必要以上に気を遣わず、お互いがお互いの人生を歩みながら向き合っている。
色々な恋愛の形がある中で、元彼との恋愛を断ち切れてよかった。元彼、断ち切らせるきっかけをくれてありがとう。
きっと貴方が今も大好きな煙草みたいに、お互いをボロボロにしたり、終わりが見えたりするような恋愛に区切りをつけられてよかった。
元彼、別れてくれてありがとう。
さようなら。お互い幸せになろうね。
新しい彼氏さん、出会ってくれてありがとう。大好きです。