拝啓 貴方様
私、貴方のことが、ずっと、ずっと。
だから少し、寝る前の少しの時間でいいから、私の思い出話に付き合ってくれませんか?

全てがキラキラしていた世界に飛び込んできたのは、2つ上の貴方

いくつも年を遡るあの春。第一志望の高校に合格し、晴れて女子高生となった私は、中学の頃から続けてきたテニス部に迷わず入部しました。
あの頃、私の世界は全てがキラキラ輝いていました。そのキラキラな世界の中に貴方が飛び込んできたんです。
貴方はテニス部の2つ上の先輩で、いつもみんなを明るくしてくれる存在。笑ったらできるえくぼ。テニスに打ち込む少し大きな背中。勝負に真剣な横顔。汗でおでこにはりついた前髪。

すれ違うとえくぼを作って「おはよう」と爽やかに言ってくれる貴方に、いつも私はどうしようもなくドキドキしながら「おはようございます」と返していました。
私がずっと向こうに見つけた貴方とすれ違いたくて、わざと用もない方に歩いていたこと、いつもドキドキして挨拶していたことなんて、貴方は知らなかったでしょう?思い出していざここに書くと、すごく恥ずかしいです。こんなこと今だから言えるんですよ。絶対内緒ですからね!

たまらず伝えた想い。なかなか来ない返信は、貴方が優しいから

そんな日々を過ごすうちに、あっという間に一年が経ち、貴方は高校を卒業してしまいました。私の世界から貴方が遠くなって、寂しくて、心にぽっかり穴が空いたようでした。
だから、大学受験のことを聞きたいという名目で、貴方の連絡先を貰えた時、嬉しくてちょっと涙目になっちゃいました。挨拶と部活中のアドバイス以外で貴方と話すことはほとんどなかったけれど、私、これはきっと恋だと思いました。

私は思い立ったら即行動してしまう性格で、あの日、秋の入口の夜、たまらず貴方に想いを伝えてしまいましたね。すぐ既読がついて、返信はなかなか来なくて。私、やってしまった、と気が気じゃありませんでした。でも、貴方がすごく考えてくれているんだとわかった。

だって貴方は人を思いやれる優しい人だから。正直いい返事は期待していませんでした。
ただ貴方が考えてくれている。それだけで心の中がふわふわのわたあめで包まれているような温かい気持ちになりました。今でも思います。貴方はすごい人です。
そして貴方は、随分と長い時間考えて、言葉を丁寧に選んで、ごめんね、と言いました。
私は、やっぱりなあ、と思いつつ、これでよかったとも思いました。貴方への気持ちに向き合った、その時間がこれからの私を後押ししてくれる気がしたから。
結局その後何年も、貴方と連絡を取ることはありませんでした。その代わり、私、沢山の恋をしました。貴方のこと、忘れることはなかったけれど、思い出すこともありませんでした。

偶然再会したあの日。貴方に感じた懐かしい気持ちで分かったこと

だけど2年前、夜の飲み屋街で貴方とばったり会った時は、本当に驚いてしまいました。貴方、ちっとも変わっていなくて。えくぼを作って「久しぶり!」と笑うものですから、私、つられて「お久しぶりです」ってどうしようもなくドキドキして返しました。まるで、あの日々のように。
ただ、あの日々と違うのは、貴方の横には本当に素敵な女性がいて、私の横には大好きな自慢の彼がいることでした。でも、あの日々と同じどうしようもないドキドキを貴方に感じました。

このドキドキは何なんだろう?家に帰ってお風呂に浸かりながら、私考えたんです。本当に久しぶりに、貴方のことを思い出してみたんです。するとすごく懐かしい気持ちになって、胸が温かくていっぱいになりました。
そしてわかったんです。

貴方が笑うだけで、その場にパッと明かりが灯る。
貴方のつくる、そんな温かい空間が好きだった。もちろん今も。
だから。そんな風に、貴方のように、人を温かくできる存在に、私もなってみたいと思いました。
そう、私、ずっと、ずっと、貴方のことが憧れだったの。きっと、これからも。

少しの時間って言っておきながら、ついつい長話をしてしまいましたね。ごめんなさい。でも、でも、ありがとう。また、きっと、いつか。

P.S.そうだ!近況報告をさせてください。私、来年から教師になるんです。

貴方のように、温かい空間を子どもたちとつくっていきたい。貴方にもらったたくさんの幸せを、今度は私が、子どもたちに届けていきたいと思うんです。
ふふ、なんだかワクワクするでしょう?