私の家には、さまざまな服がある。かわいい系の服、パーカー、薄手の羽織もの……。だがその中で一着だけ、どうしても忘れられない服がある。
私は昔から、服にはほとんど興味がない。服屋自体にも自分からはすすんで行かないし、親が「この服いいんじゃない」と選んでくれた物を着ていることが多い。

だがそんな私が、初めて着てみたい、これが欲しいと思った服がある。

こんなに欲しいと思った服は初めて。何故か惹かれた羊みたいな羽織り

数年前に親とデパートに行った時、白くてもこもこした羽織ものを見つけた。外出する時に着ていけるようなものではないし、かと言ってホームウェアとして着るのもどうだろうという感じだった。
だが、何故か惹かれてしまった。まるで羊の毛皮のように、もこもこした白いこの羽織ものに。

「これを着たら、羊みたいになれるのかな」
惹かれるまま、手に取ってみた。思った通りふわふわした肌触りで、すごく気持ちいい。まるで、手だけが羊の毛皮に包まれているような心地よさ。それに温かい。……あの時の触感は、今もまだ忘れられない。

そのまま試着もしてみた。当時の私はかなり太っていたうえ、厚手の服を着ていたというのもあり、かなりピチピチだった。ファスナーがついていたが、ファスナーをしめるのも少し苦労した。

だが、それでも欲しい。こんなに服を欲しいと思ったのは初めてだ。心の奥が揺さぶられた。

買った服を来ていると、心も身体もポカポカに。数回着たものの…

私は親に「これが欲しい」と言った。親は思った通り、「え、これ着るの」という顔をした。
「確かに肌触りはいいし温かそうけど、これどこで着るの?」
母は言った。
「うーん……まあ、とりあえず家で着るよ。これからますます寒くなるし」と私はかえした。母はふーんとだけ言って買ってくれた。

その後早速家で着てみて、鏡の前に立つ。鏡に映った自分の姿を見て、「上半身だけとはいえ、本当に羊みたいだなぁ」と笑った。家族の皆も、「似合ってるよ。でもなんだか羊みたい」と言いながら笑っていた。

その服を着ていると、身体もポカポカ温かかったが、心もほっこりと温かくなった。

それからも家にいる時、数回着た。その度に家族からは羊みたいと言われたけど、悪い気はしなかった。むしろ家族間のコミュニケーションのネタにもなっている気がした。

だがそれから数年……。

あれだけ欲しかった服も数か月で着なくなった。長い間しまっててごめんね

その服は今、どこにあるかさえわからない。当時あれだけ欲しいと思ったのに、結局買ってから数ヶ月で着なくなってしまったのだ。あの時、何故あんなに欲しいと思ったのか……自分でもわからなくなっているくらいだ。

あの時買ってくれた親からも、「やっぱり、結局ほとんど着なかったじゃない」と言われたし、買ってくれた親に対して申し訳なくなった。
だが、もしあの服が見つかったら。また寒い時期になったら。今はあの頃よりだいぶ痩せ、きっと着ることができる筈だから。

「あんなに欲しいと言っていたのに、長い間しまっててごめんね」と言って、また家で着ようと思う。

私が初めて着たいと思った服、そしてこれまで見た服の中で一番、私の心を揺さぶった服だから。