1年前、たった1度だけ嗅いだ彼氏の香水の香りが忘れらない。いかにも男性がつけるような少しきつめの香りだった。
付き合って約半年のあの日、彼と付き合って私は初めて彼女になれた気がした。

猫系彼氏との付き合いは、時々彼女であることを忘れてしまいそうになる

彼はいわゆる猫系彼氏。ポーカーフェイスで口数が少ない。付き合い始めの頃は、私と一緒にいて楽しいのか楽しくないのか全然わからなかった。
嬉しい時も少し口角が上がるだけで、テンションはほとんど変わらない。連絡も数日返ってこないこともあれば、電話で2時間くらい話すこともある。
こんな調子だから、もちろん彼は愛情表現も少ない。ハグをするのも手を繋ぐのもいつも私から。彼の口から「好きだよ」なんて聞いたことがない。
デートの頻度も遠距離恋愛レベル。でも、デートのお誘いは彼からすることが多いから、一応私のことは好きなんだろうなとポジティブに捉えなければ、自分が彼女であることを忘れてしまいそうになる。

コロナということもあり、ある日彼の家でデートをすることになった。お家デートの時は、お昼ご飯を一緒に作ってから映画を観るのがルーティンだった。
その日も一緒にお昼ご飯を作り、食べ終わってから二人でごろごろしていた。その時、彼が後ろからハグをしてきた。
彼にそんなことをされたのは初めてだったから、「少女漫画みたい……」とドキドキした。そして、私の髪をいい香りがすると褒めてくれた。あまりにも普段とギャップがありすぎて、どうしていいかわからなかった。
だから、「そういえば、香水とか使ってる?」と照れ隠しのように彼に質問した。すると、棚から香水を持って来て、「たまにこれ使ってる」と言って、彼は私の腕にその香水をつけた。
腕を動かす度に彼の匂いがして心が温かくなり、彼との距離が縮まったように感じられた。

おそろいの匂いは恋人同士の特権で、私は彼の彼女だと思えた

その日は家に帰ってからも、その香水の香りを楽しんでいた。前に友達が、「彼氏の香水をハンカチにつけたら、離れてても一緒にいる感じがする」と言っていたのを思い出した。全くその通りだった。
今までは彼のクールな性格故に、私は彼女なんだろうかとデートの日の夜はいつも不安になっていた。でも、その日は彼の香水のおかげで、私は彼の彼女だと思えた。おそろいの匂いは恋人同士の特権だと感じた。
また、あの日は珍しいことに彼の方からハグをしてきた。それを思い出すと胸がキュンとした。普通だったらこんな些細なことでは喜ばないのかもしれない。でも、私にとっては大事なことだった。私ばっかり彼を追いかけているのではないかとずっと不安だったから。こんな些細なことでも喜べるほど、私は心細かったのだと思う。

あの日以来、香水をつけてもらっていないし彼とも別れたから、いつかはあの香りを忘れてしまうかもしれない。でも、あの香水は私の中で特別な香りだ。
私はちゃんと彼女だったんだと思わせてくれた特別な香り。もうあの香水をつけてもらうことはないけれど、淡い思い出とともに心の片隅にしまっておこうと思う。