誰にでもシャワーを浴びてる最中など、ふとした時に思い出して「イーッ」と叫びたくなることがある。
私は数え切れないほどあるので、毎日ネタ切れになることなく「イーッ」となれるのだが、大体が20代前半に酒に呑まれて起こした、自分をコントロールできない若さゆえの可愛らしいハプニングだ。
フラフラの私を心配し横にいた優しい友人は、よく見るとゴミ箱だった
夕方に集合して飲んで解散し、終電で移動してまた別のグループと飲んで解散し、始発で移動してまたまた別のグループと飲んで解散し、そしてまたまたまた……と寝ずに飲み会へと飛び回っていたりしていた。
そんなに飲まなきゃいけない酒があったとは思えないが、この時はある様に見えた。
20代前半なんてまだ生まれたてのベイビーちゃんと一緒なので、嗜むなんて言葉は存在しなかった。
家に着く頃には靴底が剥がれていたり、靴下を片っぽ履いていなかったり、カバンの中に見覚えのないリモコンが入っていたりなどした。
ある日荻窪駅の改札で友人と別れ、フラフラと歩きながらシャッターが閉まる商店街を抜けると、友人がまだ隣にいることに気付く。こんな状態の私だから心配してついて来てくれたのかと感動して立ち止まり、「前から思っていたが君は本当に人柄が良い」「世界に起こり得る幸せなことは全部君に降り注げば良いのにと思っている」「君は全然わかっていない、自分の素晴らしさに。客観的に見てみて欲しい、君は国の宝だ」とまで散々熱弁して、友人だと思っていたソレをよく見たらコンビニエンスストアのゴミ箱だった。
我ながら引いた。途中で少し小さいなとは思っていた。
深夜1時近くにコンビニエンスストアから漏れる灯りに煌々と照らされながら、ゴミ箱に一生懸命話かける不審者が爆誕した。
夜中にソーラン節を踊り、道玄坂で嘔吐し、「いくら?」と聞かれる私
また違う日に、別の友人から「昨日の夜中に三軒茶屋の交差点にいた?見たよ」とメッセージと共に動画が送られてきた。
「何だよー、見かけたなら声をかけておくれよー」と思いながらその動画を見たら、話しかけなかった理由が解った。
人通りがない交差点で腰を低く落としながら、1人でソーラン節を踊る私が映っていた。
時折顔がアップで映されていて、その顔はうっかり話しかけなんてしたら「あっし、これが仕事なんで……」とか言ってきそうな職人風の真剣な顔つきをしていた。
念のため言っておくが、そんな仕事は、ない。
また別の日には渋谷の道玄坂で嘔吐物を撒き散らかした。
人の迷惑になるからこれ以上は出してはいけないと口を閉じたら、鼻から出た。
「そっかー!鼻と口は繋がってるもんねー!」と天を仰いだ。
私が撒き散らかしたものを、一緒にいた友人達が2リットルのペットボトルの水を急いで幾つも購入してきて道路の脇に流していた。
しまいには1軒目が終わり、2軒目に向かう途中に新宿の南口で友人を待っていた時。
もうすっかり楽しくなっていたので、ただニコニコして立っていたら何と間違われたのか、通りかかったサラリーマンな風貌のおじさんに、ニヤニヤしながら「いくら?」と聞かれた。
突然のことだったのでビックリしてしまい、無視することもできず「ごっ、5億円ですけど……」と答えるしかできなかった。
おじさんは「はあ?」と言って去っていった。
こっちの台詞だ。
今私のような子がいたら、かつての私を抱きしめるかのように守りたい
とても楽しく、どうしようもなくくだらなく、でも自分を作り出すために必要な日々だったが、今そんな子が近くにいたら「よしなさい、そんなになってまで!」と止めに入るだろう。
悪い人間に狙われたり、犯罪に巻き込まれてしまうかもしれない。
本当に危なくなることもある。
人のことを言えないのは重々承知だが、それでもアルコールに沈むしかないのだと言うなら、私を呼んで欲しい。
ボディーガードをしながら家まで送り届けよう。
かつての私を抱きしめるかのように、いたいけな少女達を危険なものから護りたい。
ここまで読んでくれた人の中に、もしかしたら知り合いがいるかもしれない。
「前から薄々気付いてはいたが、ここまでイカレポンチな奴だとは気付かなかった、関わるのをやめよう」と思われている可能性が高い。
私の元から離れていく前にお伝えしたいことが1つある。
ジントニックを10数杯飲んだ後にチェイサーとしてテキーラを3杯飲んだり、おんぶをされながら銀座を練り歩いた女がいる。
私の母だ。
これは抗えない血筋もあったのだ。
それを考慮した上で、今後も仲良くして欲しい。