料理のにおい、香水のにおい、汗のにおい、動物のにおい、花火のにおい……今までいろんなにおいを感じてきた。
おいしそうなにおい、懐かしいにおい、いいにおい、嫌なにおい、嗅ぐと幸せな気分になるにおい……数え切れないほどたくさんのにおいがある。
そんな中で、私にはわからないにおいがあった。
太陽のにおいだ。
ふとんの干したてのにおいなのか……晴れた日の外のにおいなのか、それとももっと別のにおいなのか……私にはよくわからなかった。でも、私はあの時、確かに言われた。
太陽のにおいがすると。
姉がよく私に言った。「この辺この辺!耳の後ろから首くらいのところから、わかのにおいがする!」
私の匂いってなんだろう。
自分では自分の匂いがわからない。周りの人は自分の匂いってわかるのだろうか。
ただ、姉は嬉しそうに、わかの匂いがすると微笑んでいた。あの顔を見たら、きっと、悪いにおいではないんだろうと感じた。
私のにおいを太陽のにおいと重ねていた彼の言葉がグッと心に刺さった
前の彼もそうだった。私の匂いを嬉しそうに嗅いで笑っていた。自分の匂いを嗅がれるのは照れ臭くて、くすぐったくて恥ずかしかった。
変なにおいしてたらどうしよう。汗臭くないのかな。大丈夫かな、と不安にかられることもあった。
料理した後なんて、手から玉ねぎのにおいが染みついているときもあり、焦ることもあった。
そんな私のにおいってどんなんなのだろうか。
疑問を抱く私にあの時、彼が言った。
添い寝する彼が「わか。わかは、太陽のにおいがするな」。
太陽のにおいって嗅いだこともないだろうに、何を言ってるんだと思った。またデタラメ言って……。
でも、なぜかこの言葉が今でも頭の中にこびりつく。この言葉を言われた時、何か心を響くものがあった。ドキドキしたわけでもときめいたわけでもないのに、何かグッと心に刺さるものがあった。
私のにおいを太陽のにおいと重ねていた彼。
太陽という存在と私の存在。
彼は、私に照らされていると感じてくれていたのではないだろうか。
添い寝する。ただそれだけで、そばにいるだけで、太陽に照らされている感じがすると感じたのではないだろうか。そう思ったら、太陽のにおいに愛着がわいた。
私はわからない太陽のにおい。
私の好きだった彼が言ったにおい。
私の大好きな姉が言った私のにおい。
それが太陽のにおい。
知りたいようで知りたくない太陽のにおい。わからないけど、忘れない
いつか、わかりたい。太陽のにおい。
でも、ちょっぴりわかりたくない太陽のにおい。
わかったら、私のにおいじゃなくなるみたいで、まだわかりたくない。
いや、やっぱりなくなる前、知りたい気がする太陽のにおい。
複雑な思い。知りたいようで知りたくない太陽のにおい。
太陽のにおいが、私の特別なにおいでありたい。
いつまでも、私の大切な人を照らす、私のにおいでありたい。
私のにおいである、太陽のにおいがこれから先も維持できるものかわからない。
でも、私は太陽のにおいで幸せにしたい。
ううん、違う。太陽のにおいが、わからなくても、もし私から太陽のにおいがなくなったとしても、幸せにできるような人になりたい。
私の知らない太陽のにおい。
愛おしい気持ちにさせてくれる太陽のにおい。
わからないけど、忘れない。
私から太陽のにおいがしたこと。
私に太陽のにおいがするって言ってくれたこと。
太陽のにおいにありがとう。あたたかい気持ちにさせてくれて本当にありがとう。