大学4年生。就職活動をしているとき、「新卒一括採用」というシステムが嫌いだった。
何が正解かもわからないなかで、情報に踊らされ、理不尽に不採用を突きつけられる。
実務能力に関係あるのかわからない「学生時代に力を入れたこと」などを聞かれ、コミュニケーション能力が重視される、同じような学生を採って、いったい企業は何がしたいんだろうと思っていた。

いわゆる新卒一括採用の暗黙のルール、本質はどこにあるのか

人と同じことをすることが苦手な私は、皆と同じように、リクルートスーツを着て、髪を括って前髪を横に流して顔が見えるようにし、"清潔感"のあるメイクをすることに強い抵抗感を抱いた。
とはいえ、就活をしないでそれに「おかしい」と異議を唱えたところで、それは「負け犬の遠吠え」にしか見えないだろうとも思っていた。
親にも「お願いだから大学卒業後は自立してくれ」と言われており、アルバイト先の時給では食べていけないよなと思い就活をした。

結局一体何のために「こんなことを聞かれるんだろう」と思ったり、いわゆる新卒一括採用というような試験をやる企業にはことごとく不採用を突きつけられたが、同じ業種でライバル企業2社でのアルバイト経験があるという珍しい経歴を買われ、無事にその2社から内定をもらった。
どちらも選考中スーツを着る必要がなく、最後まで自分はこの制度に馴染めなかったなと思った。

内定をもらったあとも、働く前から「働きたくない」と皆が口を揃えて言うことにも違和感があった。
厚生労働省の調査 によると、実際、新卒入社の3年以内の離職率は相変わらず3割に上る。「4月から働くのが楽しみだ」と思える企業に就職できない現状は「おかしい」としか言いようがない。

採用者側の立場で気づいた、あの頃わからなかった面接官が見ていること

時は経ち、社会人としても、もう6年生になった。
新卒で就職した会社からベンチャー企業に転職をして、採用に関わるようになった。
あいかわらず日本の、あの画一化されたような「新卒一括採用制度」には違和感を拭えないが、あの頃は見えなかったものが見えるようになってきた。

まず「企業に雇われる」ということはどういうことなのかを考えたこと。
新卒で入った会社で仕事がしんどくて仕方がなくなって、「転職しよう」と思ったとき、ちゃんと自分がしたい生活と、企業側の私を雇うメリットを考えないとまた同じ繰り返しだということに気づいた。

今の会社に来て、思うように「内定」がもらえない学生も見るようになった。
採用する側に立って思うことは、「なんとなく就職したい」くらいに思っているだけで就職できるほど世の中は甘くないということ。
ある程度自分のプライドが許すレベルの企業に就職したいなら、自分は何ができてどんな考え方をして、何を企業にアピールしたいのかくらいは、押さえておかなければいけない。
そのうえで、「企業にとって自分を雇うメリットは何なのか」という企業視点を持てるとなおよい。
そのことに気づけているか気づけていないかで、面接の受け答えが随分違う。
新卒一括採用なんて、評価基準がわからずコミュニケーション能力だけを評価しているのだろうと思っていた。でもきっと、こういうところを面接官は見ていたのだと思う。
結局は、面接官がその人と「働きたい」と思うか否かだ。

そう思うと、やはりリクルートスーツや、引っ詰めた髪。就活メイクなんてやはり解せない。「新卒一括採用」という枠に嵌めて学生の個性を見えなくしてしまうのは、もったいない。

腑に落ちる就職活動に大事なことは、企業を選んでいるという感覚

採用は「お見合い」みたいなものだ。
自分が1番輝いていると思う格好をして、よくわからない面接マニュアル本に書いてある受けと答えをするのではなく、自分の言葉で話してくれる人と会話をしたい。
結局マッチングがうまくいっていないから、就職する前から「働きたくない」という声が上がるのだ。

きっと新卒の採用活動は、企業も学生もお互い必死だ。
でも「お見合い」なんだとしたら、選考過程のなかで企業が「採りたい」と思うことはもちろん、学生も「この会社に入りたい」と思えることが大事だ。
学生が「審査されている」と思うのではなく、自分も「選んでいるんだ」という感覚になれるだけで、就職活動で苦しむ学生は減るはずだ。

リクルートスーツも引っ詰めた髪も就活メイクも、マニュアル化された受け答えも全部なくなって、もっと納得感のある採用活動が定着していったらいいなと思う。