私は現在都内に住む就活中のフリーターだ。
高校卒業後、専門学校進学の為に地元を離れ、今年で上京6年目。
今は就活、資格・語学の勉強、アルバイトに忙しく、地元が恋しくなる頻度が増えた。
上京直後はホームシックになったが、友達や周りの支えがあって段々と自由に慣れてきた。夜遅くまでのバイトもキラキラの夜景も、「東京」に憧れを持っていた田舎者の私にとって毎日が楽しくて幸せだった。
専門学校に進学してから大学卒業後の現在までフリーターをしている私に、母は仕送りを送ってくれる。その中に食料品と共に封筒に入った手紙が届く。
「体に気を付けて」
この言葉は必ず手紙の最後に書いてある。
小さい頃から修学旅行や遠征、旅行に行くときはメール・LINE、何度も見て聞いてきた言葉だ。
実家に住んでいた時は毎日といっていいほどに聞いていたから、親からの言葉のありがたみについて深く考える人はいないと思うし、私も深く考えていなかった。
母の優しさに時々涙目になることもあったけど、すぐにまた忘れて日常に戻る。その時の私は母親の言葉を受け流していた。
いつもの言葉が身に染みるのは、一人ぼっちになった時
2020年1月。コロナ、という言葉もこれから世界がどのように変わるかも分かっていなかった私は、お気楽にニュースを見ていた。
年末~正月まで帰省をして、東京行のバスを待っている時、「体に気を付けて。次はいつ帰ってこられるかな」と母がぽつりと言った。
「すぐに帰るよ、大丈夫」なんて軽く返した数か月後、緊急事態宣言は発令され、マスク警察、外出自粛。これはほんとに現実なのか。そう疑いたくなってしまう状況になった。大学最後の年もオンラインで、校舎には卒業式の1回だけ踏み入れることになった。
毎日毎日うんざりするような心痛むニュース。バイトもなければ授業もほとんどなかった私は、一人に耐え切れなくなっていた。
帰省したかった。母に会いたかった。
あの時の母の言葉が思い出されると同時に母の姿を思い出す。
「体に気を付けて」
ひとまわり小さく見える母。次に会う時には恩返しを
思い返せば、いつから母はあんなに小さく見えるようになったのだろう。
高校生までは母はずっと母だった。久しぶりに会った母は少し老いていた気がした。
いつから母は永遠と元気で、絶対におばあちゃんにはならないと思っていたのだろう。
幼い頃からの魔法を解かれたかのように、母は確実に老いていた。
母は永遠に生きているわけじゃない。人というのはある日突然いなくなってしまうものだ。そして命は二度と戻ってこない。
決して裕福ではない、普通の家庭の子供二人を都内の私立に通わせて、周りの子と同じように、決してお金で不自由がないように、母は何でもやらせてくれた。
自分の服は買わずに、新品の服を、希望する場所への学費を、習い事を。
母はいつもどんな思いで「体に気を付けて」と言っていてくれていたのか。離れて少し分かった気がする。
医療に関わる人として毎日毎日いろんな人に出会うからこそ、母はその言葉を伝える。簡単に帰れなくなってしまった現在だけど、これからはもっと母と会話をしたい。親孝行したい。そして次に会ったら母の代わりに私が言いたい。
「体に気を付けて」と。