1年前、高校時代に私を目の敵にしてきた同級生から手紙が来た。
開封して読んでみると、謝罪の言葉がつらつらと述べられていた。薄っぺらく、自己擁護の裏返しのような謝罪だと思った。最後には、「仲直りしたいです」というようなことが書かれていた。
だから私はその手紙に、返信を書かなかった。後悔はしていない。むしろ、よくそんな手紙を書いて送れたものだと思っている。
ただ自分がしてきた汚い過去の精算をしたいという、究極のエゴではないか。私を慮る気持ちなど、一片も感じられない言葉の羅列だった。忘れたかった過去を掘り起こされて、私はしばし怒りも忘れて呆然としていた。
彼女は、私にとって「たった1人の演劇部の同期」だった
彼女とは、たった1人の演劇部の同期同士だった。お互いに趣味が似ていて、会話も弾んだ。日々の練習も励まし合い、ときには休日に2人で出かけたこともあった。
何かがおかしいと思ったのは、私の複数人の友人から異口同音に言われた言葉からだった。
「あの子、いおちゃんになろうとしてない?」
初めは、気のせいだと思っていた。私がリボンをつけて登校した次の日には、似たようなリボンをつけて登校し、あるキャラクターのキーホルダーを鞄につけて登校した翌週には、同じキャラクターのキーホルダーをつけていたことも、ただ趣味が同じだからだと思っていた。
でも、夏の大会の役が決まってから、彼女に対する違和感は大きくなった。私が主役に選ばれたのだ。
彼女は、自分が主役になるものだと信じて疑わなかった。高校の部活から演劇を始めた私と違って、中学時代から劇団に所属していた自分こそが、主役に相応しいと思っていたようだし、私もそういうものなのかな、と思っていた。
でも、なぜか私が主役に抜擢されてから、彼女の行動はエスカレートしていった。私が髪を切れば自分も髪を切り、かんざしを挿して登校したら、翌週には派手なかんざしを挿してきた。
あげくの果てには私の友達に私の悪口を吹き込んで、私を学校で孤立させようとした。幸い、彼女の異常さに気付いた友達はすぐに戻ってきてくれたが、恋人だけは違った。
部活をやめて私が生徒会に入ると、彼女もまた「真似」をした
彼女は私の恋人が欲しいと言ったものを何でもプレゼントし、もので釣っていたのである。そんなもので釣られる馬鹿な恋人にも呆れたし、そこまでして私の周りの人達の目を自分に向けようとする彼女の必死さにも言葉をなくした。
演劇大会のあと、私は部活をやめてしまった。彼女の行動に嫌気が差したのと、先輩達が卒業して部内の気風が変わったためである。
その代わり、生徒会に入ってみた。友達も一緒に入ってくれて、なかなか楽しい日々だった。だが、飽きてしまって一期だけで生徒会もやめた。
そうしたら、次の学期に例の彼女が生徒会長に立候補した。演劇部はバイトも生徒会も禁止なはずなのに、何故だろうと思ったら、彼女も演劇部をやめたそうである。その頃には彼女のことはどうでも良くなっていたので、生徒会で彼女が何をしていたのかは私は知らない。
彼女の上辺だけ謝罪に、私は罵詈雑言を浴びせる気にもならなかった
そんな彼女から、突然「私は悪くないと思っているけれど、あなたが傷付いたのならごめんね。謝ったから仲直りしようね」などと手紙をもらっても、返事を書きたくなるわけがない。だから私は手紙を書かなかった。
上辺だけの謝罪の言葉も、罵詈雑言を浴びせる気にもならなかった。代わりに、高校時代、いちばんつらかったときに支えてくれた友達に手紙を書いた。LINEでもやり取りをしているけれど、お気に入りの便箋と萬年筆で、心を込めて手紙を書いた。
どうしても書けなかった彼女への手紙。私はその選択を、後悔していない。