拝啓、苦楽を共にした親友、もしくは戦友へ

お元気ですか、なんて改まって言うのは変かもしれないね。ついこの間も会ってるし。
いよいよ私たちも大学四年生になってしまいましたね。部活もいよいよラストシーズン。順調に乗り越えられていますか。
……いえ、順調に乗り越えられているわけがないのはわかっています。ただでさえ少ないマネージャーの数をさらに減らし、あなたに仕事のすべてを押し付けて部を去っていったのは私なのですから。

運命的な存在。二人で一緒にいればどんな辛い仕事も笑ってできた

一日違いで入部したお互いの印象は最悪だったね。
私は金髪で目つきの悪いヤンキー、あなたは恐ろしく口数の多い女子高上がりの浪人生。
でも、お互いにやると決めたことはとことんやる、気が強くて曲がったことが大嫌い、そんなところが似ていて、気づけばいつも一緒にいる存在になってた。似た者同士という言葉がこんなにも一致する人間はいない、そんな運命的な存在。それがあなただった。

シーズン中の仕事がえげつないほど多くて、週に一回はカラオケで徹夜して、歌も歌わずパソコンとにらめっこし続けたね。超つらかったけど、できることなら歌い明かしたかったけど、あなたと一緒に使えない先輩や部活の愚痴を言いながら夜を明かす時間は案外楽しかったなと今では思ってる。あなたにとってもそうだったら嬉しいな。
あなたには本当にすべてのことを包み隠さず話してきたし、いろんな気持ちを共有してきた。しかし、そんなあなたにも伝えられていなかったことがあります。

部活が禁止された時、ふと立ち止まった足はもう動かなくなっていた

大学二年生のシーズンが敗北で終わり、新しいシーズンに差し掛かろうとしていた時、新型コロナウイルスの流行により活動を停止せざるを得なくなりました。予定されていたプレシーズンの試合はすべて中止。新歓もロクに行うことができず、入ってきた新入生は僅かに三人。新たなスタートを切るにはあまりにも不安なことが多い年となりました。

ほぼ毎日のように行っていた部活がなくなり、家にこもりきりの生活。私の心の中では、もとからくすぶっていたこのまま部活を続けることへの不安が、時世の煽りを受けて黒煙を立ち込めさせていました。毎日毎日何の疑問も持つ暇もなく行っていた部活がなくなり、私は疑問を持つ暇を与えられてしまったのです。

私は何のために部活をしているの?このまま続けて一体何を得られるの?マネージャーという立場が徐々に私の心を蝕んでいきます。
そして私は気づいてしまったのです。自発的に始めたことが、いつの間にか義務になっていたのだと。
そう考えたとき、私の足は部活に向かうことをやめました。大学三年生の初夏、私は退部を決意しました。

自分が義務から逃げ出すために、私はあなたの存在に蓋をした

あなたが苦しむことはもちろんわかっていました。それは仕事量についても、精神面についても。
あなたがいたから私は頑張れたし、辛いことも乗り越えられた。それはあなたにとっても同じだったと思っています。だからあなたのためなら頑張れた。きっと部活も続けられた。
そうわかっていたから、あなたの存在をなかったことにした。自分がこの義務から逃れるために、あなたに抱く感情と、築いてきた信頼関係、何者にも代えがたい友情を、一時的に忘却することにしたのです。

本当にありがとう、そしてごめんなさい。どうか、許さないで

こうしてあなたを一人残して部活を去ることへの罪悪感を放棄した私は、とてもライトに、あなたに退部を決意したことを報告しました。
あなたは止めませんでした。それは部活を続けることがどれほどつらいことなのか、あなた自身が私と同じくらいわかってるから。私は私のことを優先したのに、あなたは最後まで私のことを想って、退部する私の背中を押してくれました。

あなたにやめないでと言われたら、私がやめられなくなるということもわかっていたのでしょう。本当にありがとう。そして、あなた一人を残してしまって本当にごめんなさい。
あなたはこんな私と今も仲良くしてくれるけど、どうか、心の隅では、私のことを許さないで。