「ちょっと待ってくださいね」
年季の入ったメモ帳をめくりながら、私の質問の答えを急いで探してくださる先輩。
「いえ、たくさんメモを取っていらっしゃって、素敵です」
そう言うと、先輩は恥ずかしそうに笑った。

私は人生初のアルバイトを始めてまだ半年。社会のルールなんて全く知らない私に、仕事内容以外にも世の中の“当たり前”を、先輩方がたくさん教えてくださる。
時に私が忙しく働いていると、先輩が気にかけて声をかけてくださる。できない時や失敗した時に、「そんな時もある、というか人生そういうことばかりだから気にしなくて良いよ」と慰めてくださる。
新米アルバイトなんてどうせ雑用係、なんてと思っていた私を迎え入れてくれたのは、なんとも言えないアットホーム感漂うアルバイト先だった。

思ったことをうまく言えず、恥ずかしがり屋の私に残る、一生の後悔

小さい頃から周りと少し違うものが大好きだった私は、自分の好きなものを周りに伝えられなかった。友達はたまごっちが大好きでも、自分の好きなものは仮面ライダー。おままごとをするより、木登りやスーパー戦隊ごっこをする方が楽しかった。
そして、小さい頃から親から褒められた記憶があまりない。思い出すのは、叱られて布団の中で泣いた記憶ばかり。
自分のことを曝け出す場所がなく恥ずかしがり屋で、そして自分にとてもとても自信がない。だんだんと、そんな人間になっていった。

中学二年生の夏、大好きな祖母が亡くなった。
夏休み中には、何度も祖母のいる病院へお見舞いに行った。
「今日は外で弟と遊んで、宿題を終わらせたんだ」
こう祖母に伝えるのはいつも父。私はなんとなく恥ずかしくて、毎回祖母と会話ができない。本当はたくさん会話をして、帰り際には毎回「大好きだよ、また数日後も来るね」と言いたかった。
しかし、もう二度と言えない。一生忘れられない後悔が残ってしまった。

「一時の恥か、一生の後悔か」という選択は、私の人生を大きく変えた

一時の恥ずかしさを選ぶか、一生後悔する方を選ぶか。私はこの経験から、恥ずかしがらずに相手に気持ちを伝えることを学んだ。
「好きなものは好きだし、素敵だと思うものは素敵。これって、伝えられたら自分も相手も嬉しいんじゃない?」。無理に自分の趣味や気持ちを曝け出す必要はなくても、ポジティブな感情は伝える方が良いと気が付いた。
そこから、私の人生が180度変わったと言っても過言ではないかもしれない。友達が髪型を変えたら「新しい髪型、素敵じゃん!」、誰かがさりげなく行動してくれたら「やってくれてありがとう!」と、自分が「いいね!」と思ったことをどんどん相手に伝えるようにした。
すると、相手も喜んでくれるし、自分も相手の喜ぶ姿を見ると「伝えられてよかった」と嬉しくなる。自分の気持ちを伝えるって、何も恥ずかしいことはない。なんだこれ、とってもハッピーじゃん!

アルバイト先には、終始不機嫌な方からご丁寧にお礼を言ってくださる方まで、本当にいろんなお客様がいらっしゃる。自分はこんな人間にならないぞと思うときもあれば、こんな素敵な人間になりたいと思う時もある。
いろんな人間を目にしながら、アットホームなアルバイト先で、自分の自慢したい「他人の良いと思ったところをすぐに伝える」という温かい気持ちをどんどん育てていきたいと思う。