わたしにはだいすきなかれがいる。
年はひとつ違いで、バイト先で知り合った。とても優しくて賢くてルックスは真剣佑似だと言われるかれ。周りにはすごく仲が良くて羨ましいと言われる。
例えば殴られたり暴言を吐かれるなんて絶対にないし、普通に悩みのないしあわせカップルに見えるかもしれない。
かれとの毎日は楽し過ぎて、つい人に惚気てしまう。
楽しかった会話に次のデートの予定。人に聞いてもらいたいことは山のようにある。
ただ1つだけ、人には言えない、そんなしあわせな恋の中身がある。
付き合いが1年になるわたしたちは、男女の階段を登っていない
わたしたちは潔癖なくらいに男女の階段を登っていない。
わたしはこのことがよくわからないでいる。
泊まりなんてもちろんない。
もうすぐ冬になるこの寒い季節にも、抱きつくことも、手を繋ぐこともない。
唇は重ねない。並んで歩いたり座ったりしても、腕も肩もくっつかない。
互いに成人してお子様なわけでもない。付き合いももう1年経った。
でもわたしたちのデートは、きっとそこら辺の中学生以下なのだろう。
かれには何人か昔お付き合いのあった女性がいるらしいことは知っている。
かれは、わたしにとっての初めての恋人。
そのこともかれは知っている。
わたしに男性経験のないことを気をつかってくれているのだろうか。
怖がらせまいとしてくれているのかもしれない。
でも逆に、男の人を何も知らないわたしを陰で嗤ったり、面倒に思っているのかも、しれない。
それともさほど、わたしがすきではないのか。
付き合いましょう、そうしましょう、のやりとりはなく、なんとなーく始まった交際。
もしかしたらそこからすれ違っていた?
この人わたしのことがすきなのかも、なんて思い込みだったのかもしれない。わたしがひとりで舞い上がっていたのだろうか。
大事にされているだけ?それとも?かれの気持ちばかり考えてしまう
でも、そんなの1年もかかる前に明らかになるのではないだろうか。
雰囲気に押し切られるように付き合った恋人と、記念日を楽しんでくれるだろうか。わたしの大変な時にわざわざ駆けつけてくれるだろうか。もっと連絡してきていいよ、いついつ会いに行けるよ、なんて、言ってくれないのではないだろうか。
わたしよりも昔の恋人の誰かが忘れられないのだろうか。その人とはどんなことをしてきたのだろう。気になって仕方がない。
わたしのことがオンナに見えないのだろうか。
それとも、かれが異性に性的な感情がないとか、そういう行為が嫌いだとか、そんなわけがあるのかもしれない。
例えばそんな打ち明け話をされたとて、わたしはかれにべた惚れ継続なのは間違いがない。確信がある。
そうなら言ってくれた方が、わたしとしては有り難い。だいすきなかれを疑わなくて良くなるのだから。普通に悩みのないしあわせカップルそのものになれると思う。
それとも単に、ものすごーく、大事にしてもらっているだけかもしれない。だとすれば一般的な指標とか目線とかを気にして、かれの優しさを前面に受け止められていないのはとても申し訳のないことではないのか。
周りの誰にも言えない。わたしの恋の、ほんの一部分の話
他人に触られるのは、びっくりするかもしれないし、とても温かいかもしれない。
わたしはあなたを撫でられたいし、手を繋いで歩きたい。
だいすきなかれとなら、そんなことだってしてみたい。
大人の一線を越える時、すごく痛いし、体調のリスクもあることは知っている。ポルノ的なものには全然興味がない。そういう刺激や快感が欲しいと思ったことはない。
でも、かれとなら、わたしはしてみたいのかもしれない。
一線を、超えたいと思っているような気もする。
よそのカップルの話もする。
どこどこに泊まりに言ったらしい、とか。あの2人は結婚するらしいよ、とか。
映画や本が互いにすきなので、一緒に見たりも感想を語り合ったりも、する。
時にはラブシーンだって出てくるし、主人公たちの間に子供ができることもある。
むしろわたしたちほど潔癖な男女のものがたりの方がよほど珍しい。
それを一緒に、この映画良かったね、と涙を流しあうのだ。
そんな後にも当然かれは、わたしに触らない。
どうして?と聞くこともできないでいる。どう思っているのか質問できればおめでたいのだけど。これはどういうことなのだろう。
かれにも話せないし、周りの誰にも言えない、わたしの話。
わたしの恋の、ほんの一部分の話です。