毎晩カーテンを少し開けてから眠りに就く。翌朝、太陽の光が部屋に差し込むように。良い気持ちで目覚め、ランニングウェアに着替えられるように。

精神と肉体が知らぬ間に限界を迎えて、私は早朝ランニングを始めた

今年の5月に入ってから、毎朝7時に起きて家の近くの川沿いを走るようにしている。ランニング前にはミュージックアプリのサブスクリプションで10曲ほど好みの音楽を選び「自分だけのオリジナルメドレー」を作り、リズムに乗りながら走り出す。早朝から体を動かすには、テンションを上げることが必要なのだ。
ランニング時間は、だいたい30分。調子のいい日は45分。明日に響かないよう、決して無理はしないのがモットーだ。疲れたら歩いてもいいことにしているし、ランニングの後は自分を甘やかすかのように栄養たっぷりの朝ご飯を食べている。

私が朝のランニングを日課にしたきっかけは、もとをたどると就職活動にあった。昼夜問わずエントリーシートを書いたり、ときには徹夜もいとわずインターンシップの活動を行ったり……。私の精神と肉体は、自分でも知らず知らずのうちに限界を迎えていたようだ。
どれだけ寝ても疲れがとれず、家に引きこもってはコンビニ弁当を食べるだけの毎日。そして、そのストレスに加えてコロナウイルスによる自粛。これが大きな打撃となった。

昼夜逆転生活。スマホの万歩計には「75歩」と記されていた

大学の授業はオンライン、大好きな友人たちにもほとんど会えないし、息抜きに買い物に行くこともままならない。仕舞いには、「外に出る用事がない=わざわざ朝起きる必要がない」と体が錯覚し始め、いつのまにか昼夜が逆転しだした。
こんな風に、朝目覚めてもなかなか起き上がれず、ひねもすベッドで過ごすことを何日か続けたある日、なにげなく見たスマホの万歩計の数値に衝撃を受けた。 「75歩」!
一日中過ごして75歩? その前の日は81歩、その前は87歩。こんな数字見たことない。

このままではいけない。でも、どうすれば。とりあえず外に出て歩かなくてはならない。
そういえば大学入学時に、体育実技の講義のために実家から高校時代のシューズを持ってきたんだった。その靴を履いて、明日どこかのタイミングで近所を歩こうかな。
でも、周囲の人に見られたら恥ずかしいし、夜にはエントリーシートを書かなきゃいけないから朝早い時間にしよう。そうと決めたら今日はもうこのまま寝て、明日早く起きて、散歩に行こう。それにしても75歩か……。

ランニングを始めて知った。早朝の空気がこんなに気持ちいいなんて

と思いたった次の日から、毎日ランニングが続いているのはまあ偉いものだ。最初の5日間は当初の目的通り軽い散歩を日課としていたのだが、毎朝歩くうちにだんだん体が軽くなっていくにつれて、自分でも気づかないうちに走りだすようになっていた。
早朝の清潔な空気の中で少しでも足を高く、早く上げることがこんなに気持ちの良いことだとは知らなかった。
もともと私は走ることが苦手だった。小学校の頃のランニング大会では基本的に最後尾、運動会の前日は常に雨が降るように逆さてるてる坊主を大量生産する始末。リレーの選手になんて一回も縁がなかった。

そんな私が、大学4年生になっていきなり自主的に走り出すなんて、人生は何が起こるかわからないものだ。今日もカーテンの間に小さな隙間を作ってからベッドに入る。明日はどんな曲を聴きながら走ろうか。