私は、身内の中で特別出来が悪いと言う理由で、一部の人たちからバカにされてきた。
しかしあの執拗さを見ると、理由はそれだけではなかったと思う。
バカにされる一方で、他の人からはよく可愛がられていたことが、気に食わなかったんじゃないか。

彼や母の友人が、似ても似つかぬのに私を「姫」と呼ぶ理由

中では可愛い顔立ちをしていたという理由で褒められたりしたが、それだけが私の可愛がられた理由ではない。
「可愛いは、見た目と中身の総合評価」と母から言われていた私は、中身で好感を持たれることを心がけた。人には感謝して、嬉しいとか素晴らしいと思ったことは素直に出す。助けられて生きている意識が強かったから、出来る限り困っている人の力にはなろうとする。ほんのそれだけで、私は愛されてきた。
だから彼氏や母の友人から、「姫」なんて言われるのだ。彼からはたまにだけど、本当に不思議なことだ。

どうして似ても似つかぬのに姫と呼ぶのかと彼に尋ねると、愛情たっぷりに育てられたが故の博愛精神、実はまぁまぁお嬢様な母や、祖父母の影響などから、そう見えたと言われた。本物を尊び、細かいことは気にしない。祖父母は場面により、イミテーションや安価品も有難がったけれど、そういうところを言っているようだ。

両親に恵まれず、人のいやな面ばかり見てきた彼は、私のような何も考えていない人が良かったんだろう。彼は人間不信だった。
「私がいるから大丈夫」と言い続け、信用してもらえるまで彼の言うことに付き合った。何を言われても、前向きなことしか考えなかった。
いろいろ複雑なものを抱えた彼に対し、ここまでした理由が、タイプで誠実そうで私のことをとても大事にしてくれるからだ。頭の中がお花畑という意味では、なるほどお姫様かもしれない。

むくんだ顔を見ても、動じずに変わらず好きで、姫扱いも変わらない彼

少なくとも、姫と呼ばれる所以が見た目ではないことは確かだ。
昔の私は顔がむくみやすかった。むくむと、二重はしっかり一重になり、丸い顔はさらに丸くなり、個々のパーツも崩れた。
一重美人は難しい。全体のパーツやバランスが整っていないと、綺麗に見えない。
急いで蒸しタオルで戻していたが、研究した方がいいと思い、鏡に映る顔を観察するようになった。そうして努力を重ねたら、二重に戻った時の顔も前より良くなり、今では顔がむくむこともなくなった。

しかし、彼にはむくんだ顔を見られてしまった。事前に説明はしておいたが、本当にむくんでがっかりした。ずっと俯いていたが、面白がる彼に顔を上げざるを得なくなり、見せると意外な反応をされた。
彼は笑顔だった。別に悪くないんじゃないのくらいな反応で、それでも恥ずかしがる私を笑った。
元彼には見た瞬間、硬直された。今までのことは、顔で判断されてのことだったのかなとショックを受けた。実際そうだから固まったんだろう。この人は、私の顔が好きだっただけか。
彼氏はむくみ顔を見ても動じなかったねと言うと、確かに今の顔の方が当然いいけれど、別にずっとあの顔でも好きだし付き合ってる。姫扱いも変わらないと言われた。
なんで?どうして?と問い詰めると「自惚れんな」と言われた。多分だけどかなり怒ってる。

何もなくても愛され、ただいるだけでいいことを彼に教えたのは私

見た目もそりゃ関係ないとは言えないけれど、私が思うほどは影響しないということだろう。確かにそんな大した顔じゃないのに、自惚れていた。どんな美人でも、顔だけでこんなに愛されはしないだろう。
彼は私を溺愛している。姫なんていう時点でおかしいと気づいた人も多かっただろうけれど、彼はもう変態レベルだ。私は喜んでいいのか悲しんでいいのかわからない。
「男なんて皆こんなもの」と言われたけれど、どこまで信じて良いものやら。

親戚の一部に悪く言われていたことを、私は彼に言った。落ち着いてから、「数字などのわかりやすいものでしか人を判断できない人はかわいそう。だから無能のくせに受け入れられる私が嫌いなんだ」と言ったら、それだけじゃないと言われた。そのことを私から教わったのにとまで言う。
そういえば、何もなくても愛されることを、ただいるだけでいいことを彼に教えたのは私だった。時間はかかったけれど、彼は昔の影を感じさせない人になった。だから私は彼の周りの人たちにも親切にしてもらっている。
彼には友達も恩師もたくさんいるけれど、心から愛し、自分の人生の全てを使って守り抜こうという人はいなかった。どんなに親しい友達でも、それは無理だから。私にとってそういう人は親だったけれど、そういうものに恵まれない人も、世の中にはいる。分かりにくく、うっすらと無関心な親になられてしまって、なんとなく寂しい思いをしている人は多いかもしれない。
彼はずっと寂しかったのだろう。それでも頑張っていたし、人を大事にする人だから周りには好かれ、私には魅力的に見えた。だからなんでも応援してあげたいし、出来る限り尽くしたい。

目の前にいた、心から好きだと思った人に尽くして本当に良かった

私は彼の前からいなくなったりしないとも言ったが、私が彼より先に死んでしまうことはあるかもしれない。
そうしたらどうするのかと尋ねると、彼の答えは「死んでも俺の中で生きてる」だった。
だから、もし私が先に逝っても、ちゃんと残った家族を大切にして生きるし、他の人を好きになることもないと言う。今コロナでなかなか会えないことについても、「生きているんだから、離れていたって悲しむことはない」と言っていた。言葉に重みがあった。
彼は強い。身近な人との死別も経験しているからだろう。ここまで強くなるには、どれほどの痛みがあったのか。甘ちゃんの私には、そのつらさを想像することも、それで片付けることすらも難しいけれど、とりあえず会えない今を耐えよう。

目の前にいた、心から好きだと思った人に尽くして本当に良かった。人の直感は結構当たる。
しかしいつまで彼は私のことを姫と呼んでくれるのだろうか。彼はしわくちゃになってもと言っていたが、私にはわからない。
とりあえず今は、二人きりの時くらいは姫と呼ばれても恥ずかしがらない私になれるよう、彼の好きな黒髪の手入れでもしておこう。
そして次に会った時には、こんな呼び名にも笑顔で応えたい。