「ねぇねぇ、部活の後にスーパーによってさ、ソルティライチ買ってみたよ」
そうLINEしたのは6年前の夏のこと。
高校生になってはじめての夏のことだった。

グループLINEに入っても個人の深い交流はない。ただ一人を除いて

きっかけはLINEだった。高校の入学式の前に自分のクラスとそのメンバーがわかり、すぐにLINEのグループが出来た。名前も顔も分からない人たちと同じグループに所属し、よくある『初めの挨拶のメッセージ』が次々とグループ内で交わされた。
次に何が起こるか。そう、クラスメイトを次々と友だち追加していく。こうして私の高校生活が始まったわけだ。
LINE上では「よろしく」と言っても、実際クラスに行ってみればあまり話さなかったり、そもそもグループができていれば、それ以外の人とは深い交流をしない。
例に洩れず私もグループに入り、それ以外の人達とは基本的に個人LINEをすることはなかった。
ただ一人を除いて。

その人とはコンスタントに会話が続いた。
別に趣味が同じだったとか、そういう理由があったわけじゃない。しいて言えば、共通の友人がいることというくらいだろうか。彼と仲のいい男子は、私が所属している演劇部の同期であったのだ。
彼とのLINEはとても楽しかった。短くも長くもないメッセージを一日に一回は送りあう。ここで大事なことは、私たちはLINE上だけの関係だったということだ。クラスで話すことはない。私自身が人見知りだということ、そして自分の容姿に自信がなかったということ。
また、彼もシャイで、同性とは楽しそうに話をするけれど、女の子の前になると静かになる人だった。
私たちはLINEの中では幼馴染のように仲良く、明け透けなく日々の出来事を語り合った。

ようやく訪れた彼と直接話す機会。このチャンスをものにしたいのに

いつからだろうか。学校で彼を目で追うようになったのは。私は惹かれ始めていたのだ。
それを自覚してからというもの、LINEが楽しくて仕方ない反面、直接話をしたいと思う気持ちがどんどん膨れていった。
そんな時、チャンスが訪れた。英語の時間のペアワークだ。偶然、私は彼とペアになった。すぐにワークが終わり話す機会が出来た。でも……私は話せなかった。英語のワークを終わらせた後は、机に向かって静かに座っていた。彼も同じように前を向いていた。
おかしいな、昨日もLINEしたんだけどな。どうして話せないんだろう。
私はこのチャンスをものにできなかった。
放課後、部室の窓からあの人が部活に励む姿をぼーっと眺めていた。

そんな日々が続いていたときのこと。あの人とのLINEでソルティライチが話題に上がった。暑い暑い夏の日。私は文化祭に向けて部活に励んでいた。演劇部は文化祭で公演があり、有難いことに私はメインの役をやらせてもらっていた。彼が見に来てくれることになっていた。もちろん、私を見に来てくれるのではなく、私の同期を見に、だ。
夏休みは一日練習が続き、部室の下にある自販機でよくお茶を買っていた気がする。

好きじゃないソルティライチも、彼のおすすめなら魅力的に思えた

「今日の最高気温も30度越えだよ。私は室内ででっかい扇風機かけてるからまだ耐えれるけど、そっちは外で部活だからしんどいでしょ」
「ほんっとに暑い。すぐ水がなくなるから食堂前の自販機がないと死んでしまう笑」
「だよねー。なに飲むの~?」
「ソルティライチよく飲むよ。美味しいからおすすめ!」
「そうなんだ!私あんまり好きじゃないんだよね…笑」
「え!なんで!笑」
そう。ソルティライチは好きじゃない。嫌いじゃないけど好きでもない。
以前、父親が買ってきて飲んだことがあったのだが、何とも言えない後味がしてそれ以降は飲もうと思わなかったのだ。
けれど、気になっている彼にすすめられたソルティライチは当時の私にとってとても魅力的に思えた。
だから……、
「じゃあ、久しぶりに飲んでみようかな!」
「おすすめだから飲んでほしい!今日みたいな暑い日に飲むとさいこーだから!それに部活で疲れた後ならなおさら美味しいって!」
彼とのLINEが楽しくて仕方なくて、彼に喜んでほしくて、私は部活後にスーパーでソルティライチを購入したのだった。
「ねぇねぇ、部活の後にスーパーによってさ、ソルティライチ買ってみたよ」

今思えばあれば恋かもしれないし、憧れていただけなのかもしれない

私たちのLINEは高校に入学してから約一年間続いた。
彼がスマホの機種変更をして、LINEのメッセージが消えるまでほぼ毎日続いたのだった。

今思えばあれば恋だったのかもしれないし、ただ彼に憧れていただけなのかもしれない。彼はシャイだったけれど、素直で優しくて、クラスのみんなから好かれていた。
そんな彼になってみたかったのかもしれない。LINEをすることで彼と同じになりたかったのかもしれない。それとも、人気者の彼と誰にも気づかれずひっそりとLINEすることに優越感を感じていたとか。それはないか。
でもとにかく、彼に対しては特別な感情を持っていた。
あぁでも、当時の気持ちが何であれ、彼とのLINEは本当に楽しくて仕方がなかったのだ。彼も同じ気持ちでいてくれただろうか。そうでありますように。

彼の機種変更後、私たちはメッセージを送りあえなくなった。
あの時勇気を出して、メッセージを送ればよかったな。
だからさ、今、君に言いたいことがあるんだ。

「ソルティライチの君へ
夏になるとソルティライチが飲みたくなるのは何でなのかな?」