私が謝りたいのは、人ではないけれど、大切な家族だったきみに。

連れて帰るとき、ちいさな鼻がのぞいた。そんな幸せな出来事は初めて

きみは私が小学3年生くらいの時、急にやってきました。たまに行く少しさびれたショッピングモールのペットショップで、兄弟犬と一緒にケージに入っていたきみ。私にはすごくちいさく見えて、まだまだ子犬だと思ったけれど、ペットショップからしたらもう「育ちすぎた」犬だったらしい。値下がりしていて、店員さんはあと一週間売れなかったらふれあい動物園みたいな、ドサ周りの犬にしてしまうんです、といっていました。
お母さんが、値段が安かったのもあってか「…買っていく?」といってくれたとき、私は夢を見ているんだと思いました。犬を飼うのは大変なんだよ、だからうちでは飼わないよ、とよく言われていたので…
段ボールでできたキャリーケースに入れて、家に連れて帰るとき、2センチくらいの空気穴からたまにちいさな鼻がのぞいて、そんなに幸せな出来事は初めてでした。

自分勝手に扱い、粗相をすると怒りました。私を嫌いだったと思います

でも、私は本当にどうしようもなく子供で、たまにきみに優しくしなかった。本当に後悔しています。きみがものを言えないことをいいことに、子供だった私の遊びにつき合わせて自分勝手に扱ったし、つらいことがあったとき八つ当たりのような真似をしました。飼い主としてちゃんとしたしつけもできていないくせに、粗相をすると怒りました。きみは私が嫌いだったと思います。

きみがおじいちゃんになり、私が大人になったある日、急に調子が悪そうになったきみに私は本当にびっくりして、いったいどうしたらいいのかわかりませんでした。すぐに病院に連れて行くのが良いのか、様子を見たらいいのかわからず、結局病院に連れていきました。とりあえず何かしなきゃと思ったのです。そこできみは採血をされて、それがすごく怖かったのだろうと思います。あんなに好きだった外に出たがらなくなってしまい、動くことが減ったきみはどんどん弱っていきました。採血の結果には問題なかったし、いたずらにきみを怖がらせただけでした。本当にずっと後悔しています。あの時、とりあえず落ち着いて、様子を見ればよかった。

きみが死んでしまう日、膝にのせていたら、きみはすこしおもらしをしました。もう最期の時が近づいていたからそうなったのに、私は気づかず、きみの身体を動かしておむつをあてました。きっと明日もまだ生きていると思っていたし、その方がいいと思ったのです。
でも、きみはそのすぐ後に死んでしまいました。私が何もせずただそのままにしていれば、もう少し生きていたかもしれない。家族がまだ全員そろっていなかったし、きっときみは頑張って待っていたのだと思います。きっとそうだと思います。

きみは自分が弱った時でも希望をくれた。私はなにもあげられずに

そのころ、私は人間関係に挫折して勤め先を退職し、無職でした。お先真っ暗だ、という気持ちでいた私は、でも時間だけはありました。弱ってもうすぐ死んでしまいそうなきみを前にして、ああ、でもせめて今、こうやって毎日一日中そばにいられるなら、仕事を辞めてよかったのかもしれない…と思ったのを覚えています。きみは自分が弱った時ですら私に希望をくれたのに、私はなにもあげられなかった。むしろ悪くしました。

人間は死ぬとあの世で裁判にかけられ、その中で生前飼っていたペットが証言台に立ち、どんな人間だったかを証言してくれるそうです。きっとその時きみが来ると思います。ひどい飼い主だったといわれるかもしれないけれど、それでもいいから会いたいと思っています。会って、謝りたいと思っています。本当にごめんね。もしも天国があるなら、どうかいまは幸せにいてほしいと、心から願っています。