私は5人家族の3姉妹。姉とは年齢が離れていて、いつも寂しかった私は「犬がほしい!ほしい!」と両親におねだりし続けて、父親に猛反対される中、やっとのおもいでこはるを手に入れた。
うちで犬を飼う方法。父親との闘いにずっと思い悩んできたが、小学6年生の正月、私に名案がおりてきた! そうだ。私にはお年玉がある。
「もらったお年玉で、犬を飼おう! 自分のお金ならなにもいわれないよね?お父さんには、『捨てられて可哀そうだったから拾ってきた』といえば、きっとうまくいく!!」
幼いながらに、ひらめいた名案だった。
父には「捨てられて可哀そうだったから拾ってきた」と嘘をついた
母親には「みるだけだから!」という約束で、ペットショップへ連れて行ってもらった。お店で、孤独な瞳でどこか寂しそうにしているわんこに見つめられ、私は一瞬で心打たれてしまった。
この子だ!!!
運命を感じて、ありとあらゆる方法で母親を説得し、私は持っていた3万円で1匹のパピヨンを手に入れた。家に連れて帰ると、大きな段ボールを抱えてびくびくしながら母親と演技したのを覚えている。
「このワンちゃん、捨てられて可哀そうだったから、拾ってきたんだ。うちで飼っていいよね?」
もちろん父は、「だめだ!」猛反対。私と父は大喧嘩した。そして3日間だけなら預かっていいことになった。
名前はこはる。こはるに会いたくて学校から走って帰る毎日、たったの3日間で私の心の中にあるもやもやする孤独を満たしてくれた。
そしてお別れの日。朝、目覚めて別れが本当に辛くて私は泣いた……。だけど厳しい父親の壁はどう頑張っても越えられない。お母さんが私をよんだ。涙をぬぐって1階に下りた。
「ちょっと外、見てきてごらん」
そういわれたので、カーテンを開けた……。すると庭に、犬小屋(ゲージ)ができていた!そう、お父さんは、こっそりこはるの居場所を作ってくれていた。こはるのことを認めてくれたんだ!
本当に嬉しかった。
27歳の今、振り返ってみると、「犬拾ってきた」(あんなかわいい犬が捨てられるはずがない)と言われたあの時の父親は、騙されたふりをしてくれていたんだなぁって思う。
「嘘にきまっている!!」と私を疑わずに、純粋な私の子供心を、厳しい父親なりに受け止めてくれてたんだなぁと……。騙されたふりをしてくれていたことをおもうと、本当にできた父だなと、心から感じる。「くそおやじ!!」と、犬が飼えないことでそんな暴言をいっぱいはいてしまった自分に後悔してる。お父さんごめんね。
徐々にこはるの世話は母任せに。一緒に散歩することもなくなった
そして、こはると私たち家族の物語は始まった。
当時小学6年生だった私は、毎日こはると一緒に寝たし、散歩に行ったし、毎日一緒に遊んだ。いつの間にか大親友になっていた。
だけど年齢を重ねるうちに、こはるとの時間より、別の時間に夢中になった私は、こはるのお世話は完全に母親任せ。散歩にでかけることもなくなった。こはるとかわすのは、朝の「おはよう」くらい。寂しかっただろうな……。
時は経った。就職して2年がたち、私は海外に留学することになった。
留学して2週間がたったころ、こはるが夢に出てきた。こはるとの楽しい夢から覚めて、こはるが恋しくてたまらなくなって母親に「こはるの写真送ってくれる?」と連絡した。
翌日に返信と写真が送られてきた。
(あれ??この写真、日本にいる時に私が撮った写真……。私は最近のこはるの写真がみたいのになぁ……まあしょうがないかっ)と自問自答した。あぁ、こはるに会いたいなぁ……。3カ月たったころには日本から、両親が遊びに来た。
夜のディナーでの出来事。
「こはるはげんき??」「げ、げんきよ」「最近の写真みたいなぁ!!」と尋ねるが、どうも両親の反応はおかしかった。父が重たい口を開いた。「いなくなったんだ」。
こはるがいなくなって一番悲しんでいたのは、飼うことを反対していた父だった
話の内容は、留学して2週間後、突然犬小屋から出ていって行方不明になったらしい。私が「写真を送って」と突然連絡が入った時だったから本当に驚いたとのこと。日本を離れたばかりの新生活だったから、いろいろ大変だろうと思って、悲しい思いはさせたくなくて、母親なりに気を使ってくれていたそうだ。
そのころ母親や家族は、生まれたばかりの孫ちゃんにつきっきりでお世話をしていたので、こはるがかまってほしいと寄ってきても、「あっちにいってなさい」と邪魔者扱いばかりしてしまっていたみたいで……。寂しい思いをさせてしまった、寂しくて居場所がなくなったとおもって出ていっちゃったのかも……と涙ながらにとても悔やんでいた。
こはるがいなくなってから、一番悲しんでいたのは、父親だったらしい。
保健所に電話したり、家にビラを配ったり、近所のスーパーに張り紙してもらったり、電柱にまでビラを張り付けてしまって近所からクレームがはいったり……それはそれはこはるのために懸命に走り回っていたみたい。
あんなに犬を飼うことを反対していた父親が、誰よりもこはるに心動かされていたんだなぁ、こはるの力って本当にすごいなぁって。
もしも天国にいるのなら、この思いよ、届いてください
……当時は、数カ月たっていたけど、目撃情報は1つもない。誰かにひきとられて幸せに暮らしているのか、それとも交通事故、餓死……。こはるはどうなったのかな。辛い。こはるの寿命がきた時は、庭の木の下にこはるを埋めてあげて、ずっと家族一緒にいてあげようねって約束していた。こはるとの約束果たせなかった。こはる……どこにいるの?
いつのまにかこはるを大切にできなくなっていた自分を振り返ると、悔しくて悔しくて悔やんでも悔やみきれないくらいあの時の自分に後悔した。
私たち家族にとって家族の点と点をつなぎ合わせて、一本の線にしてくれた天使のような存在だったこはる……。ごめんね。私たちはなにもしてあげられなかった。最期にふたりで散歩に行ったのはいつだろう……。
もしも天国にいるのなら、この思いよ届いてください。こはる、寂しかったよね。家族はみんな、こはるのことが大好きだよ。もう、あのころのような間違いは二度と起こさないから、許してくれるのならもう一度私たち家族のもとに戻ってきてください。
いまでもあなたを探しています。そしてごめんなさい。