あの日に戻れるのなら、初めて恋が実ったあの日の夜に戻りたい。
戻ってあの喜びをもう一度感じてみたい。
終わり方は最悪だったけれど、
あの日だけは一生忘れないキラキラした大切な思い出で、自分だけの宝物。
8年経ち、今でも1月3日になると思い出す。
今は彼とは違う人と結婚して、子どもが産まれそんな事を考えてはいけない立場だとは分かっていても戻りたいと思ってしまう。

気持ちを抑えきれず、思い切って告白。結果は振られてしまったけど…

8年前の1月3日。
当時わたしは高校生3年生で、部活が忙しく2人で会えるのがこの日しかなかった。
とてもとても寒かったのを覚えている。

元々わたしの片思いから始まった。
好きだと気づいたのが、2年から3年に上がる春と冬の間の頃。
吹奏楽部に所属しており、彼は部活の後輩で、同じ楽器だった。
元々話しやすいとは思っていたし、楽器の事で相談に乗ったり、色々教えてあげているうちに好きになってしまっていた。
恋とは不思議なもので、彼の下手くそだった音が素敵に聴こえてくる。

恋愛対象は絶対に年上だったのに、年下を好きになった自分に少し戸惑いを覚えながらも「好き」はどんどん加速していく。ついに耐えきれなくなったわたしは告白したのだが、振られてしまった。「今はそんな気分ではないので」と。

実際わたしも音大受験を控えていたため、そんな事にかまけている暇はないなと思い、一旦封印して受験勉強と楽器の練習に没頭した。
でもやっぱり好きだった。諦めるどころか寧ろどんどん好きになっていった。

秋も終わる頃、無事に大学も合格して色々落ち着き始めた頃、学校外で演奏会のあとすぐレッスンがあってわたしと彼だけ先に学校に戻らないといけない
という事があった。電車で1人だったが、彼はわたしを見つけて隣の車両から来てくれた。
部員が200人近くいるので2人きりになる事なんて奇跡に近かった。
今しかないと思い、わたしはご飯に行こうと誘った。断られると思ったらOKだった。
部活のない日に会おう。となって1月3日に会うことになった。
それまでの間、目が合うと笑いかけてくれるようになり愛おしくてたまらなくなった。

今回OKしてくれた理由を尋ねると…彼が伝えてくれた「好き」の言葉

そしていよいよ1月3日。
夕方の6時頃、少し大きい駅で待ち合わせた。そわそわしてドキドキして心臓が口から出そうだった。
三が日という事もあって人はまばらだったから、彼がすぐに分かった。普段制服姿しか見ないから、私服の彼にドキッとした。髪の毛もセットしてあった。

じゃあ行きましょうか、と彼は言って、パスタ屋さんでご飯を食べた。 
わたしがカルボナーラで彼はボロネーゼを頼んだ。緊張して食べられなくて、彼が食べないんですか?と聞いてくるくらいだった。食べ終わった後、誰もいない屋上みたいなところに連れて行かれた。

わたしは今回なんでOKしてくれたのかを聞いた。

そしたらそんなに聞きたいですか?と聞かれて頷いた。そしてわたしの目を見て
「好きです」と言ってくれた。
わたしは死んでもいいと思った。
こんなにこんなに好きな人が、好きだと言ってくれた。わたしは彼を抱きしめていた。抱きしめるなんて初めてだった。彼は頭を撫でてくれた。

ドラマの主人公みたいな甘い時間。誰にも言えない宝物みたいな恋

寒空の下、少し寂れたショッピングモールの屋上。わたしの恋は実った。
先輩の頑張ってる姿に惹かれました。と言ってくれた。
ああ、本当に実ったんだな、と余韻に浸っていると、「キスしてもいい?」と彼が聞いてきた。

そんな事聞かれると思っていなくてびっくりした。頷くとゆっくりと彼の顔が近くなって、そこで目を閉じた。世界でいちばん好きな人とするキスがこんなにも幸せなのかと思った。
彼が「大好き」と囁いた。わたしはもう1回とせがんだ。何回でもしよう、と言ってまたキスをした。

ドラマの主人公になったような夢みたいな、そんな甘い時間だった。

今でも忘れられない程、戻りたいと切実に願うほどの素敵な素敵な1日だった。

この前、息子を連れて意味もなく2人で会ったあの場所に行ってみた。
元々少し寂れていたのもあって、取り壊しになっていて入れなかった。そのままのところもあって、少し思い出しながら歩いた。
待ち合わせた場所はそのままで、少しドキドキした。彼に会えるわけもないのに。

純粋に「好き」という気持ちだけの恋。
続かなかったけれど、キラキラした誰にも言えない宝物。未だにわたしは彼を忘れられずにいる。だから戻りたいと思ってしまうのだろう。