「結局あの二人付き合ったんだって」
「え、まじ!バイトでかな?」
「あっバイトで思い出した。店長がうざすぎる話がある」
「え、その話まじで聞きたい」
深夜12時のファミレス、周りに客はいない。ポテトを齧りながらくだらない話をする。それは私の過ごした大学時代の何気ない日常の一幕だ。
遡ること高校時代、私は世間の思うキャピキャピとした女子高生とはかけ離れたJK時代を過ごした。
早朝、1時間に1本しか来ない電車に乗り、遅くまで自習室に残り、髪の毛は一つに括り、眼鏡をかけ、制服の袖がボロボロになる程、血眼になりながら猛烈に勉強に打ち込んだ。
友達には修行僧と呼ばれた。青春など皆無だった。
言わずもがな彼氏などいなかった。
唯一愛したのは英単語帳だった。単語帳と見つめ合い深く愛し合ったのはいい思い出だ。
あの頃に覚えた単語は今でも覚えている。ブラック企業に勤めるサラリーマンみたいな無味乾燥な高校生活だったが、それでもよかった。
キラキラと輝く都会の女子大生になれるならば。
入学前、大学生活に絶望していた私が、去りたくないと泣くなんて
だがしかし、こんな私の血の滲む努力とは裏腹に運命とは残酷で、大学受験は大失敗。高校の卒業式の日さえ私は滑止めの大学の入試日だった。
全て終わったと思った。こんなに努力したのに見るも無惨に惨敗するなんて。
結局、とりあえず受かった見知らぬ田舎の大学に行くことになった。
知らない土地に1人。地元から車で約3時間半かかった。
入学式、両親に見知らぬ土地の一人暮らしのアパートに置いていかれた。これからこんな田舎で過ごすと思うと寂しくて泣いた。絶対これからの大学生活楽しくないと絶望した。
しかし、私の予想は大きく外れることになる。
私は大学卒業間際の一人暮らしのアパートを引き払う日、ここから去るのが辛くて寂しくて帰りたくないと大泣きしたのだった。
入学当初は卒業にあたり、帰りたくないと泣くだなんて微塵も思わなかっただろう。期待もしなかった田舎の地方の大学で過ごした4年間が、想像の遥か何倍も尊くかけがえのないものとなっていたのだ。
良いところを見つけ好きになったこの土地で、仲間と過ごす楽しい日常
大学に入学してから親友とも呼べる友達ができた。その友達とはいつも同じ授業を取り、授業中、教授の話もろくに聞かずに毎日バカ笑いした。
休み時間には、遊ぶところがないので近くの薬局で買った水風船で遊んだりした。都会みたいに小洒落たカフェで写真映えする高級な一口サイズのケーキを食べてみたい気持ちもなくはなかったが、気の合う友達と水風船とシャボン玉で遊ぶ方が私には性に合っていた。
遊び場のない寂しい田舎の夜を越えるため、深夜遅くまでファミレスでドリンクバーとフライドポテトを味方に付けて、クラスメイトの誰と誰が付き合ってるとか、バイトの店長がうざいとかそんなことを永遠話し続けて夜を明かした。そんな日常が楽しかった。
さらには思いつきで山に登って夜景を見に行った。山道にどでかいイノシシがいてギョッとしたり、田舎のくせに夜景がそれなりに綺麗だったり、そんなとこも良いなと思った。
知らないうちにこの土地が大好きになっていた。
ここに来て、こんな仲間と出会えて本当によかったと、いつしか心の底から思うようになっていた。私の友達は私を含め全員地方からやってきていたので、卒業後は散り散りになってしまう。
最後の一年は友達と沢山過ごそうと意気込んでいた。
コロナが奪った大学最後の一年。あの日にはもう戻れない
そう思っていた矢先のことだった。
コロナウィルスが猛威を振るい、大学最後の一年を奪い去った。何気ない日常さえも奪って行ったのだった。
そして私たちの4年間は不完全燃焼のまま、私たちは卒業し、社会人になってしまった。
今、社会人になってから、右も左もわからず、失敗をして周りに迷惑をかけ、やるせなくて会社のトイレで泣いている。そんな時に思い出すのが、大学時代の友達と過ごした何気ない日常だ。
都会のような華々しいものなど何もなかった。特別なことなどしていない毎日だったが、それが一番特別だったようだ。
私は結局、キラキラと輝くシティーガールにはなれなかった、なんならただの田舎の女子大生だった。しかし、シティーガールに劣らないほど私をキラキラさせてくれていたものは友達の皆んなと過ごした時間だったようだ。
思い出しては時折、あの日にはもう戻れないのだと心がキュッとなり切なくなる。
4年間が不完全燃焼で終わると知っていたら、何ができただろう
今はそれぞれ忙しない毎日をバラバラの場所で過ごしている。
目まぐるしく過ぎてゆく新社会人としての生活に揉まれていくうちに、あれほど仲良しだったのに連絡もほとんどしなくなってしまった。
私たちの4年間が不完全燃焼で終わってしまうと知っていたら、ほかに何ができただろう。
あの日々に戻れたら、わたしは何がしたいだろう。
だがしかし、そう考えてみても不思議なことに思い浮かぶのはなんら特別なことではなく、何気ない深夜のファミレスの風景と無駄に綺麗な田舎の夜景なのだ。
あの日に戻れたら、私はまたあの子と深夜12時のあのファミレスで、永遠とくだらない話をしていたい。