高校生の時、クラスの男子に恋をした。
イケメン俳優に似ていて、勉強もできる彼。
部活動や地元が一緒などの接点はなく、ただクラスが一緒になっただけだった。
彼のことを、この俳優に似てない?と友達に聞くと、「似てない!」と即答。けれどわたし的には似ているからずっと見ていられた。

興味本位で読んだ日誌には、密かに思う彼への好意を感じる文章が

数少ない接点の1つとして、出席番号が近かった。そのおかげで、化学の実験は同じグループになれた。ペアで実験をしたときはドキドキして、会話するだけで精一杯。本人に気づかれることなくやり過ごせたことにほっとしていた。
というのも、私にとって恋とは、非常にめんどくさいものだからだ。
どこかでそんな噂が立てば、一瞬でクラス中、学年中にひろがる。日にち単位ではなく、時間単位。朝に噂が立てば、夕方にはクラスを飛び越えて知っている人がちらほら。
誰がそんな噂を流すのか、どこからそんな噂が湧いてくるのか、不思議だった。
目立ちたくない。高校生活は何もかも穏便に過ごしきるんだ。
入学当初からそう決めていた私は、この思いは誰にも悟られることなく過ごそうと決めた。

ある日、学級日誌を書く当番となり、日誌を開いたときのこと。
同じクラスの女子が、彼のことを書いていた。興味本位で読んでみると、文章がどこか楽しそう。これを書いた彼女は楽観的な性格であったが、それ以上に彼女が彼に好意を抱いているのではないかと感じた。
疑い始めたら止まらない。何度も読み返し、文章を見返した。けれど文字が変わることはない。

嫉妬してる?たった数行の文章で思考が偏ったこの気持ちに蓋をした

一度興奮した私の頭は思考回路が偏っていた。何回読んでも、どう読んでも、好きだと書いてあるとしか思えなかった。
どうしても信じることができない私は、一旦その日誌を閉じた。一回離れよう。こんなことで時間を費やすのはもったいない。
クールダウンしようと自分に言い聞かせていたとき、1つの事実に気づく。
私、嫉妬してる?

普段の彼女をみていても、彼に好意を抱いている様子は見受けられない。普通にクラスメイトとして関わっているだけにしか見えない。
なのに、ここに書かれているたった数行の文章だけであらぬ方向へ思考が引っ張られていたこと……。
ああ、私、恋をしているんだ。そして、私よりもはるかに簡単に彼に近づけてしまった彼女に嫉妬をしているんだ。

自分の気持ちに気づいてしまったとき、最初にしたことは、この気持ちを抑え込むこと。
もし誰かに知られようものなら、いつ、どんな噂として広まるかわからない。
そして、私が彼のことを好きだと彼の耳に入ってしまったら、とんでもなく気まずいし、彼に失礼だ。
とにかく、この気持ちは思い出として仕舞っておこう。
自分にも恋ができるとわかっただけでいいじゃないか。
そう自分に言い聞かせて、この気持ちに蓋をした。

誰にも知られてはいけないと、仕舞い込んだ思い出。青くてうぶな恋

あらためて当時を振り返ってみても、浮かれて舞い上がっていたと思う。
人に話すのは恥ずかしい思い出だ。
そんな片思いをした彼とは、高校を卒業して以来会っていない。
これからも会うことはないだろう。
自分の気持ちを落ち着かせたあと、もう1度日誌を開いて読んでみた。
そこにはただ、こんな事がありました、と書かれていただけ。私の勘違いだった。
誰にも知られてはいけないと、心の奥底に必死に仕舞い込んだ思い出。
私だけが知っている、青くてうぶな恋。