受験を控えた15の冬、登下校時に一人で廊下を歩くとき、彼のロッカーを見つめるのが習慣になっていた。卒業前に、自分の気持ちを手紙に書いてロッカーに入れるかどうか悩んでいたからだ。
直接渡すなんて出来ないし、友人に頼む気はなかった。結局、どう思われているか分からない自分が勝手にロッカーを開けたりしたら、相手を不愉快にさせるかもしれないということで、やめたのだけれど。
第一印象は最悪だったのに、気づけば彼のことを好きになっていた
気づいたら、好きになっていた。
中学に入学して数日後、教室の外から私の男友達を含む他クラスの男子7~8人が、不適な笑みを浮かべてこちらを見ていた。彼はそのうちの一人で、私のことを全然かわいくない、面と向かってそう言った。
私はそれまで女子扱いされたことがなかったが、ブスだと言われたこともなかったので、顔面パンチをされた気分で、彼の第一印象は最悪だった。
しかしその日以来、彼は何かとちょっかいをかけてきた。いじられ経験が豊富な私だったが、彼のは他の人とは何か違う気がした。気づけば私は、彼のことが気になって仕方がなくなっていた。
彼は人気でファンが多かったため、友人たちは私をミーハーだと思い、「ろくに話したことないのに好きになるなんて、分からない」とあまりいい顔をしなかった。
「あなたと彼合わない気がする」そう言われたのと、友人の友人が彼のことを想っていたこともあり、私は何だか応援されていない気がして、友達には違う子を好きになったと嘘をついた。
私に好きと言ったのに。他の女の子に告白され、付き合い始めた彼
学年末の最後の日、彼は不意に、好きです、と私に言った。
その場の状況が悪かったこともあって、私は冗談だと思い、流してしまった。
ただ冗談とは思いつつも、これからを想像する頭の中は、カラフルな炭酸ガス入りのキャンディでデコレーションされていた。次こそは同じクラスになれるようにという験担ぎで、彼が好きだといったアイスばかり食べた。
ところがまもなくして、彼は他の女の子に告白されて付き合い始めてしまった。友人からそう聞いたとき、私は目の前が白くぼやけ、彼女たちの声は次第に遠のいていった。トイレに駆け込むと、あぁ、やっぱり私のことなんて好きじゃなかったんだ!という言葉が頭蓋骨にワンワン反響した。血が一斉に足に流れるのを感じた。
私は始まったと思ったが、それは見当違いだった。
私と彼が不似合いだと言った友人は、彼と彼女のことをお似合いだと褒めちぎり、ご親切にも、今日一緒に帰るだとかを教えてくれた。友人にカマをかけられるのが癪だったので、私は興味津々な様子で頷き、相変わらず違う子のファンを演じ続けた。
真実を知った今、彼は今も心にいて、いつも彼の姿を探してしまう
失恋と友人への失意から、私は半ばやけになって勉強と部活に神経を注ぎ、なるべく彼を視界に入れないようにした。彼も私に話しかけてくることはなくなり、私たちはその変な、好きです、以降、卒業まで一言も交わすことはなかった。
きれいさっぱり忘れる気でいたのに、卒業して1年経って、彼が私のことを最後まで好きだったと知った。彼のSNSの背景は、自分でも言ったことを忘れているような、私の好きな場所だったからだ。
そしてそれは私の進路が丁度落ち着いた頃に、違うものに変わった。そのせいで、私は10年近く、たまにある貴重な、異性から向けられる好意を突っぱね続けている。
気に入っていた中学の制服は、勝手にお下がりで人にやられてしまったし、たまたま持っていた端の方に彼が写った唯一の写真は、突然親が部屋に入ってきたとき、見られたと思って破いてしまった。当時の日記は、大学進学で家を離れるにあたって捨てた。
それでも、私の心にはまだ彼がいて、電車に乗ると一駅一駅停車するたびに、いるはずのいないホームで彼の姿を探してしまう。
こんな愚行、誰にも言えないし、言うつもりもない。