セブンスターとハイボールの缶が似合う彼と別れた。
思い出といえば、夜のコンビニまでスウェットで歩いて、弁当とアイスを買って、食べながら家でゲームをする。いつもアパートの窓際、タバコの煙が月の光を覆うのを毛布に包まり眺めていた。そんな日を何故か惨めに思う時もあった。

セブンスターの彼のことをSNSに聞き、昔の彼の可愛いあの子を見つけた

大学生になってすぐに、階段の踊り場で「1年生?」って声をかけられた。大学生のノリで付き合った何も知らない彼の不器用な沼に私は落ちた。

私に冷たくするのも、私に足枷を付けて絆と呼ぶのも、大雑把な優しさも。
「あんな男やめておきな」と言う友達の声に、私は「彼の何を知っているの?」と心で言い、「そうだよね」と口で言った。

自分の素性をあまり話さない彼の事を、私はSNSに聞いた。
見つけたいのに見つけたくない。でも見つけた。

彼の昔のアカウントにいたのは、微笑む彼と昔の彼の可愛いあの子。

可愛いあの子は、前髪ぱっつんの私とは違ってかきあげた前髪で、ガーリーな服装な私と違ってシンプルなパンツスタイルで、アニメ好きな私と違ってディズニーが好きで、友達の少ない私と違って友達に囲まれていた。
私とは大違いだった。大違いで大違いで、私は可愛いあの子になりたくなった。

私なんて人間、元々白紙だから。あの子になりたくてSNS色に染める

「もしかしたら、私は可愛いあの子の代理の者かも」
そう思うと怖くなったけど、白紙の私は何もなかった。
だから、彼の好きな可愛いあの子になるのが目標になった。

髪型もメイクも服装も変えて、SNSの登場人物も増やした。
充実している私とその横にいるエモい彼との写真を、みんなが見て羨ましがりますように、いつか可愛いあの子が見ますように。
神様。そうすれば私は救われるのです。

私なんて人間、元々いないんだから。

「私のこと好き?」って彼に聞くと、「好きだよ」と答えた。
それ以外の答えなんてないのに、私はその言葉を聞きたくて質問をした。
その言葉が私にとっては悪魔の薬みたいに、心をちょっとだけ満たすから。

「彼くんをこの前バッタリ見かけたよ」
大学の友達に言われた。人伝に聞く彼の事は、彼の言葉より信憑性があった。
また私は真実をSNSに聞いた。

答えてくれる画面の中にある過去の出来事の破片を集めた。

過去のパズルを拾い集めなくてもいい。あなたと出会うためなら

彼は私に伝えたバイトの日に、暗闇のブラックライトの中にいた。
右手にタバコとお酒、左手には知らない女の子がいた。

どこかで消えてしまいそうな彼を、失わないようにしていた彼を、私はどこかで失いたいと思っていたんだって、泣きたくなるほど愛していなかったのを知った。

彼に伝えた理由のない別れ話。
私は失った物を数え続けた。

キラキラした過去の断片を私は求めて、過去を作る為に今を創った。
私は一体誰だろう。

写真の中の私は誰だろう。写真の中で笑う私の気持ちは何だろう。

私はSNSを消した。

ずっとあるはずのそれはなくなった。

毎朝起きて1番に開くSNSが、カーテンに代わって。
ご飯食べながら開くSNSが、目の前の友達に代わって。
電車の中で開くSNSが、外の風景に代わって。
寝る前に開くSNSが、本に代わった。

駅のホームでポケットから財布を落とした君を追いかけられたのは、いま隣で君が笑っているのは、私が前を向いて生きていられるようになったから。