「ピコンッ」
このLINEの通知音が彼と会う日の合図。どうして私が落ち込んでる日に、タイミング良くいつもLINEしてこれるのだろう。
「もしかして……エスパー?」
そんな独り言をつぶやきながら、私は彼に返信をする。
漫画でありがちな幼馴染の彼に、今日こそ想いを伝えようと思っていた
「23時にいつもの所で。適当な格好で良いよね?」。送信。
すぐに彼から返信がきた。「うん」。
なんだよなんだよ、もっと他の言葉で返信できないのかよー!そう思いながら支度をする。適当な格好で、って言いながら何着も何着も鏡の前で気に入るまで、着替えるのが毎度のルーティン。
だって、私は彼のことが好きだから。少しでも可愛いって思ってもらいたい、妹ってカテゴリーから抜け出したい。
そんな私の想い人の彼は、小さい頃からの幼馴染み。漫画やドラマでありがちな関係。これね、まじで妹にしか見られない!!だからたまに彼が誘ってくれる、気まぐれドライブが楽しみで仕方なかった。多くて週に2回、少なくて月に3回。彼と二人で隣り合わせになれる数少ない時間。
今日こそ、今日こそ彼に想いを伝えようと思う。
22時55分、待ち合わせ場所に到着。そこに彼が乗るワゴンRが近づいてきた。
「おまたせ」彼はそう言いながら、助手席のドアを開けてくれた。こういう気遣いできるとこも好きなんだよなぁ、そう思いながら車に乗り込む。いつも行き先は決めずに、ただひたすら車を走らせる彼。運転する横顔が愛しくてたまらなかった。
「あ、あのさっ」「お前に話がある」
びっくりした事に私と彼、同時に話し始めたのだった。
「先に話していいよ!」
そう私が言うと彼は、ゆっくりと口を開いた。
思ってもいなかった彼の言葉に「おめでとう」なんて言えなかった
「俺、結婚することにした」
思ってもなかった言葉に私は、息をするのも苦しかった。そして、精一杯声を絞り出した。
「え?なに?今、結婚って言ったの…?」
聞こえるかわからないくらいの、か細い声で聞いた。
「そう、結婚。だからもう今日で、お前とのドライブは終わりだから」
彼はなぜか悲しそうな顔をしながら、私に言った。
「お前の話はなんだった?」
そう聞いてくる彼に私は「ん?あれ?何だったっけ?忘れちゃった」そう答えた。
言えないよ。
言っても意味がない。だって彼は結婚するんだから。
そう自分に言い聞かせて、必死に笑顔を作った。
「おめでとう!」
心の底からは言えなかった。言えるわけがなかった。
そして、ドライブは無言のまま終わり、別れ際に「またね」とだけ言って、溢れそうになっている涙を隠すように走って家の中に飛び込んだ。
終わった、私の恋は終わったんだ。我慢してた涙が次から次に溢れ出してくる。
考えても遅いとは分かっていても伝えたい「大好きだったよ」の一言
「ピコンッ」
そこに彼からのLINEがきた。
「いつもお前は落ち込むと、部屋の電気を付けずにテレビ見てるだろ?だから、元気づける為にいつもドライブに誘ってた。だけど、いつしか俺もお前とのドライブが、楽しみになってた。ありがとうな。お前も幸せになるんだぞ!」
「なんだ、エスパーじゃなかったんだね笑」なんて呟きながら返信を考える。
幸せにしてほしい相手は貴方だったよ。だけど、もう今そんなこと考えても遅いのはわかってる。伝えたいことはただひとつだけ。
「ずっと大好きだったよ、ありがとう。ばいばいっ」
そう送って携帯の電源を落とすと共に、私の恋も幕を閉じた。