「今年のクリスマスは家で過ごそう」
シチューに付け合わせるパンを買いに出た。
指の隙間を通る風が冷たく、街並みのイルミネーションの鮮やかさを見上げる人々の顔が明るい。
もうすぐ、彼が家に着く頃だ。私は落ち着いた街並みの中を、すこし早足で歩いた。

交際3ヶ月目の彼と、若者である事を楽しみたくて準備を張り切る

友達に誘われた飲み会という名の合コンに参加した。
背が高く、スラッとしていて、センター分けの前髪に、ロングコートを羽織った彼と出会った。
好きなタイプを「丁寧な人だ」と答えた私に、彼は「朝のゆっくり飲むコーヒーが格別」と言った。
その彼は私にとっては、若者である事を楽しむためには、丁度よかったのだ。

私たちはここぞとばかりにイベントに参加する。クリスマスもその一つ。キリスト教徒でもないのに、でもこれも若者である事を楽しむためであった。

インターホンの音が部屋に響く。
「遅れてごめんね。ちょっと迷っちゃって。いい匂いだね。ご飯作ってくれてありがとう」
初めて私の家にきた彼は、私の見慣れた部屋を新鮮に感じさせた。
彼は長細い黒い紙袋から、ワインを取り出し、
「今日は飲もうね」
と言った。
ソーセージに、チーズ、シチューにパン。冷蔵庫にはケーキ。
いつか、こんな若者らしい事をしたと思い出す日がくるんだろうと、少し寂しく思った。付き合って3ヶ月目だとしても、私は私のために張り切るのだ。

窓際のポインセチアを褒める彼。私はいつから花が好きになったのかな

「はい、クリスマスプレゼント」
彼は鞄の中から小さな紙袋を取り出した。
紙袋にはブランドのロゴが書かれていた。
そして袋の中の箱、箱の中の袋、ようやく取り出せたのはネックレスだった。
「可愛い!ありがとう。これ私から」
最近、車を納車したと言っていた彼に車用のディフューザーとブランドのキーホルダーを渡し、彼はそれを並べて写真を撮っていた。
私も真似して写真を撮った。

「綺麗な部屋だね。あ、花好きなんだ」
彼は窓際のポインセチアを見て言った。
「うん、その花かわいいよね」
私はいつから花が好きになったのかと考えた。

その花は4年前。当時付き合っていた彼氏に貰った花だった。
大学の頃、居酒屋のバイト先で出会った、友達だった彼に告白されて始まった。
それは、クリスマスになる数日前だった。
彼と恋人になって初めてのデートがクリスマス。彼は私にポインセチアの鉢を渡した。
綺麗な赤は何より美しかった。

夏も、観葉植物みたいに緑で溢れるポインセチアを彼は大切にしていた。

「飲食店を経営したい」と言っていた彼とは、夜の公園を散歩したり、家で一緒に料理をするのが定番のデートだった。

私の一部を形成したポインセチアの彼が憎く、そして、愛おしい

大学卒業後、私たちは喧嘩をした訳でもなく、嫌いになった訳でもなく、それぞれの人生が始まるという理由で別れたのだった。

人生の一片。
けれど、彼の生活を大切にする所が私の一部になっていた。
綺麗好きなのも、植物や花を家に置くのも、料理をするのも、好きなタイプは「生活が丁寧な人」なのも趣味に「スノーボード」と答えるのも、タバコを吸う彼の為に鞄にガムを常備しているのも、私を形成しているのは彼だった。

今ソファーで私の隣に座る彼はきっと、私を綺麗好きで、植物や花が好きで、料理好きだと思っているだろう。

ポインセチアはいつも気づかれないよう、緑色に同化し、クリスマスに近づくにつれて、赤く鮮やかに花を咲かす。
私たちの出会いや過ごした時間を思い出させる。

私はポインセチアを渡した彼を憎く思った。
ずるいと思った。
でも、私を形成している一部だと思ったら、愛おしくなった。