「サンタさんって、パパとママなんでしょ?」
たったひとこと、けれどそのひとことで、私は両親を「サンタさん」から引退させてしまった。
キラキラのイルミネーションにバーゲンセールのお知らせ、ケーキの予約におもちゃのコマーシャル、外は寒くても心は温かいこの時期が私は大好きだ。
今年のクリスマスはどう過ごそうか、友達とクリスマスパーティーの予定を立てたり、自分へのご褒美プレゼントを考えたりしている中で、ふと思い出す忘れられないクリスマスが私にはある。

狸寝入りに成功したクリスマスの夜、「サンタさん」の正体を知った

もう10年以上前のことだ。確か私は小学4年生だったと思う。
私の家には毎年必ずサンタさんが来てくれた。サンタさんにお手紙を書いて、夕飯には家族でクリスマスパーティーをして、夜寝ている間にサンタさんが枕元にプレゼントを置いて行ってくれる。
私はプレゼントが楽しみで、翌朝は早くに目が覚めた。いつかサンタさんに会いたくて、毎年夜中に狸寝入り計画を決行するも、眠気に勝てずサンタさんに会うことは叶わなかった。

けれど、その年は違った。私は見事、狸寝入り計画を成功させたのだ。布団の中で目を瞑りながら、サンタさんが来るのを今か今かと待ちわびていた。
夜中の2時頃だったか、ついに部屋の扉が開いた。
ゆっくりと、私を起こさないように近づいてくる気配を感じながら、私は必死に狸寝入りを続けた。枕元にプレゼントを置いて部屋を出るその瞬間、私は薄っすらと目を開けた。否、開けてしまった。
薄く開かれた私の目に映ったのは、赤い洋服にプレゼント袋を携えた「サンタさん」ではなく、「ママ」の姿だった。

「サンタさんって、パパとママなんでしょ?」と言ってしまった私

暗い部屋の中で大きな衝撃を受けた私は、気づくと涙があふれ出ていた。
今にして思うと、これが私が初めて一人で布団の中で泣いた夜だったかもしれない。声を押し殺して泣きながら、今見てしまったことを信じたくない気持ちと戦っていた。
小学校の中学年ともなると、さすがに「サンタさん」の存在に疑問を持ち始めてはいた。だからこの夜も、「やっぱり」という気持ちがあったことも事実だ。私はなんとか心を落ち着かせ、ようやく眠りについた。
次の年のクリスマス、私はついに言ってしまった。
「サンタさんって、パパとママなんでしょ?」
きっかけは、プレゼントを置く母の姿を見たことだけではない。両親が読む雑誌を覗いた時、「子供が寝ている間にプレゼントを置いた経験」を語る読者コラムを見て、「サンタさん」は「親」であることを確信してしまったのだ。
あの時の、母親のなんとも言えない表情を私は覚えている。私自身も分かっていた。
このひとことを言ってしまえば、私の「サンタさん」は消えてしまう。
それでもこれ以上、サンタさんを信じている純粋な子供を演じられなくなってしまったのだ。

いつか私も、両親のような「サンタさん」になれたらいいな

あのクリスマスから、10年以上が経った。社会人となった今でも、予定を合わせてクリスマスパーティーを開くほど私の家族は仲がいい。
両親は覚えているだろうか、私が「サンタさん」から引退させてしまったあのクリスマスを。もし覚えていたら、その時どんな風に思ったのかな。
今となっては、大人の階段を上ったクリスマスであり、それまで「サンタさん」でいてくれた両親に感謝の気持ちでいっぱいだ。もしこの先、私に子供ができて、一緒にクリスマスを過ごすことができるのなら、私は喜んで「サンタさん」になる。
いつか、あのクリスマスのように「サンタさん」の正体を知る日が来ることが分かっていても、両親がしてくれたように、私は足音を抑えて、プレゼントを枕元に置くだろう。そして私が「サンタさん」から引退する日、何を思うのかな。
来るかも分からない未来に思いを馳せながら、いつか両親のような「サンタさん」になれたらいいなと思う。