これだけは素直に言おうと思います。
お粥が美味しかった。お父さんが作ってくれたご飯なんてろくなものはないのに、あのシーチキンと半熟卵が入ったお粥は、思いのほか喉越しがよかった。
前日までの、べちゃっとした白米とコンビニの惣菜はさすがに勘弁してほしかったけど。
そもそも私がコロナに感染してなかったら、今更お父さんにご飯の準備をしてもらうなんてなかったし、LINE越しとはいえ、ここまで頻繁に言葉を交わすことも考えられなかった。

思い出すのは「襟立ち時代」。仕事にのめり込む一方で、家族には高圧的な態度であたり散らしていた当時のお父さんは、何でも命令口調で相当嫌な奴だった。
「おはよう」も「おかえり」も「行ってらっしゃい」も何もかも、ぶっきらぼうにしか言えなくなった自分の原点はここにある気がする。
うつ病を発症して会社に行けなくなっても、相変わらず独善的で、自分のルーチンをこなすこと以外、家の手伝いも何もしない“自己中”の極み野郎には、心底呆れました。
何年も文句を言い合ってきたのに、不意に訪れたコロナは私とお父さんを翻って接触させてくれたようです。

ママが帰省している最中で、他に頼れる家族がいなかったとはいえ、肺炎を二度も患っているお父さんに看病してもらうことはさすがに気が引けて、今日からホテル療養です。
「お父さんは別の場所にいるけど、お父さんにできることがあったらいつでも言ってね」
顔も見れず家を出たあと、LINEに届いていたメッセージを見て、目頭が熱くなりました。
お父さんの不器用な優しさに正直、戸惑っています。
完治したら、今回ばかりは素直に「ありがとう」と言うつもりです。