小田和正さんの歌声と共に、見知らぬ家族の思い出の写真が次々と流れてくる生命保険のCM。父はそんなCMを見て思いを馳せて感動しちゃう。
私達3妹弟はそんな感動二の次に、お互い目配せをした後に、父の顔をニヤニヤと盗み見る。今にも涙が溢れそうな目に、最大限への字の口。

「ほら、パパまた泣いちゃうんじゃない」
「クスクス」
「あっ、涙を拭ってるよ」
「毎回同じなのによく感動できるね」
「やめなよ、真剣なんだから」
お互いの目のニヤつき度合いからすると、おそらくこんなエア会話をしていた。
感動物に弱く、テレビですぐ泣く。旅行先で知らない人に笑いながら話しかけて、世間話している。感情に素直で、我が父ながらなんか良い。これが小学生の頃の私から見えていた父。

でも、私達が成長するに連れて、徐々に父の嫌な行動が目につくようになった。
YouTubeで自動音声の政治批判垂れ流しチャンネルを延々と見ていたり、ご飯食べる時は携帯いじるなって昔は怒ってたのに、今度は自分がスマホ見ながら食べてるし。違法なサイトで漫画読んでるし。
「そんな根拠のない個人の見解のチャンネル見て政治を語らないでほしい。人に注意したことは自分でも守ってよ。楽しむなら、創作者に敬意を持ってお金払うべきでしょ」って言いたい。とても。

もっと細かい文句はまだある。月日が経つことで父が変わったのか、私が大人になって経験を経て、父への解像度が上がっただけで、もしかしたら元からこんな人だったのか。
あのCMを見て涙を流す父であることだけは、この先も変わらないで欲しい。