大学4年生、就活に失敗。それだけでもダメージは大きかったのに、適応障害で実家に帰省までしている。
田舎にある私の地元では、大学生の存在はそこそこ目立つ。「自意識過剰かよ」と突っ込まれそうだが、本当にそうなのだから仕方がない。
出かけ先で知り合いに遭遇すると、「いつから帰ってきてたの?」「今は何してるの?」「就職とかはどうするの?」という質問攻めにあう。自分の存在なんてみんな無視してくれたらいいのにと、理由が理由だけに偏屈になってしまう。
家族にすら打ち明けづらかったのに、「就活に失敗して、さらには適応障害と診断されたので休学してます」だなんて答えられるわけがない。

前に進めない今を変えたくて、髪を好きな色に染めることから始めた

就活のために、と染めた黒髪。気に入らなくて就活が終わったらすぐに染め直すんだと決めていたけど、この田舎でカモフラージュするには最適な色だった。だから私は就活を諦めても染め直したりせず、そのまま放っておいた。
知り合いだらけのこの田舎で、帰省したことを悟られず、ひっそりと過ごせるように。
でも、帰省して数ヶ月が経った11月。私の中でもうひっそりと過ごすのはやめようという答えが出た。

はっきりとした理由はない。なんならまだ人目は気になる。気になるけれど、今の自分の状況をようやく受け入れられるようになったことが大きいのかも知れない。いつまでも気にして、引きずって、前に進めない今に嫌気がさした。
自分を変える手っ取り早い方法として、まずは髪を好きな色に染めることから始めようと思い、私は美容室へ向かった。

美容室では、とても理想通りの、いやそれ以上の綺麗なブロンドベージュに仕上げてもらった。仕上がりを鏡で見たとき、私を縛っていた一つの鎖がようやく朽ちて切れた気がした。
髪色ひとつで大袈裟な、と思われそうだが、私には効果的な魔法だったようだ。

今までは他人の目を気にして、やりたいことを我慢してきたけれど、そうするとまるで底なし沼にいるかのようで身動きの取れない状況に陥ってしまう。
「今を楽しむ」という意味で周りの目を気にせずに髪色を変えたら、こんなにも明るい気持ちになれることを知れた。帰宅すると家族も「似合うね」「KPOPアイドルっぽい!」って褒めてくれて、尚のこと染めて良かったと思えた。
めでたし、めでたし。

「男」や「彼氏」というワードで、ハッピーエンドを壊す知人男性

ここまでが本来私が書くつもりの内容だった。ハッピーエンドで終われたはずの出来事。ここから1ヶ月後の12月中旬、出掛け先で知り合いの中年男性に出会うまでは。

家族と一緒に外出した先で、たまたま遭遇した知り合いの男性。地元では知らない人はいないほど顔が広い。しかしその男性の厄介な点は、知り合いがいればすぐに声をかけることと、コミュニケーションが少し面倒なところ。
この日、声をかけられたのが運の尽きだった。話しかけられたのは母だったが、その横にいた見慣れぬ金髪の女が上京したはずの私だと分かった瞬間、「なんで染めたの?」だの「上京先でできた彼氏のために頑張った?」「男関係でやけになった?」などと冗談っぽく聞いてきた。
私には一つも笑えない冗談。なんで髪を明るく染めただけで「男性」や「彼氏」というワードを言われなきゃなんないのか。

髪を染める理由に「誰か」は必要なく、執拗にいじられる覚えはない

髪を染めたのは誰かのためでも、誰かのせいでもない。ただ自分のためだった。それなのに、わざわざ「男関係で何かあったから染めた説」をでっち上げたい彼は、無神経で面白くない言葉を発し続けた。
「違うよ」と否定しても、「本当は何かあったんでしょ。男なんじゃないの?」と繰り返される。あまつさえ、金髪は似合わない、と遠回しに言ってきた。
話しかけられた序盤からショックのあまり思考が停止しており、彼の言葉に反論することができなかったが、その場で話を聞いていた姉と母、そして妹が「黒髪も金髪もどちらも似合ってる」と擁護してくれた。これには本当に感謝している。

髪を染める理由に「男」も「彼氏」も必要ない。失恋きっかけや「恋人ができて垢抜けたい」という理由もそれはそれでいいと思うし、私だってそういった理由で髪の色を変える時がくるかもしれない。でも、それは今回は当てはまらなかったのだから、あんなにも執拗ないじりをされる覚えはない。
私は自分のなりたいようになっただけ。自分の好きな髪色を選んだだけ。
ありがとう。あなたのおかげで地元に帰りたくない理由が増えました。もう2度と会いたくありません、さようなら。