なぜかクリスマスにはいつも、彼氏がいなかった。
まだ冬の寒さが残るような春に恋をして、晴れて恋人と最高の夏を過ごす。
でも秋になると、そのセンチメンタルな空気感に引っ張られるのか、別れ話が持ち上がり、大抵11月は泣き喚いて過ぎ去る。
そして全てが空っぽになって、12月を迎えるのだ。

「お母さんとお正月の服買いに行かない?」クリスマスに母からの提案

つまり何が言いたいかというと、クリスマスなんてクソ喰らえである。
それでも開き直って、クリスマスに友達との予定を入れることもできず、だからといってカップルで溢れているだろう街に繰り出すこともできず、結局は家のこたつでぼんやりしているしかないのだ。
去年のクリスマスのことだった。
「ねぇ、お母さんとお正月の服買いに行かない?」
だらだらとリビングで寝そべる私に母が声をかけてくれた。なんたって暇だし、服はいつだって欲しいし、それも悪くないなと思い出かけることにした。
しかし、家を出てすぐに後悔をすることになる。イオンすらカップルで溢れているのだ。イオンは勝手に家族が行くところだと思っていた。
「普通クリスマスにイオンのフードコート行くか?ご洒落た店のどこで食べても変わらん味のパスタでも食べに行きなよ、ほら、大事な恋人連れてさ」
私の心は汚く荒れ狂っていた。どうしようもない嫉妬である。
忘れたはずの元彼の顔すら浮かんできた。ああ、クリスマスは彼の家の近くの小さな洋食屋さんに行こうって話してたな、使い捨てライターを使う彼にポールスミスのジッポをプレゼントしようとしてたな。
なのになんで私は今、お母さんとイオンにいるんだろう。
みんなは恋人とクリスマスを過ごしているのに、なんで私はこんな日に家族といるんだろう。

気づいたら「もう帰りたい」と呟いていた。傷ついた顔をした母

そんなことを考えていたら、鼻の頭がツーンと痛くなってきて、じわじわと視界がぼやけてきた。「もう帰りたい」。気づいたらそう呟いていた。一刻も早くここから離れたかった。
「なんで?今来たばっかじゃん」
母は、涙を堪えている私を不思議そうに見ている。
「恥ずかしいんだよ、子どもでもないのにクリスマスなのにお母さんと一緒にいるなんて。もう早く帰ろうよ」
失言というのは大抵その直後に気づく。母はわかりやすく傷ついた顔をした。
しまったと思ったけど、私も後に引けなかった。
「そうだよね、ごめんね。お母さんも昔同じこと思ってたな。今日は帰ろうか」
母はくしゃりと泣いているような、笑っているような顔をして、私の頭をさらりと撫でた。うなずくように俯いて、私は母の後をとぼとぼ歩いた。

彼氏でも友達でもない、一緒にクリスマスを過ごしたい人がいる

あれから一年近く経つ。私は未だにあの日のことを母に謝れていない。
母の優しさに甘えて、自分勝手に振る舞う私は、全然大人ではなかった。まだまだ子どものままだ。
さらに言えば、母の前ではこの先もずっと子どもなのかもしれない。
そして私は今年も懲りずに、春に恋して、秋に1人になった。また、あの忌々しいクリスマスがやってくる。
でも今年の私は少し違う。今年は彼氏でも友達でもない、一緒にクリスマスを過ごしたい人がいるのだ。
ちょっと勇気がいるけど、キッチンに立つその後ろ姿に声をかけたい。
「ねぇお母さん、クリスマス一緒にお買い物に行かない?」
きっと母は優しく微笑んでくれるはずだから。