それは決して友達が嫌だとか、恋人にうんざりしてるだとかそういった意味ではなく、ましてや孤独を愛する気質な訳でもない。
ただ、日常生活を送っていると、ふと喧騒から離れて何となく「ひとりになりたい」と思う時が訪れる。
それは度々、年に何回かの頻度でその衝動に駆られ、どうしようもないほどに自分の世界に篭りたい気分になってしまう。
多分疲れている時、自分の中のフラストレーションが溜まっている時にそうなっている。

そんな時に私がすることといえば、決まっている。
それは、「ひとり旅」だ。

遠い場所へは行かず、日常に近ければ近いほど楽しさが増すひとり旅

最初にひとり旅をしたのは大学一年生の時。
一人暮らしを始めてから約半年が過ぎ、大学生活やバイトにも慣れてきた頃にその衝動が顔を出してきた。
実際、家では一人ではあるし、友達とかとも四六時中一緒にいる訳ではないのに何故か沸沸と欲求が高まってきたのだ。
そんな時に、テレビで旅の特集をやっており、ふと一人で行ってみようかな、と思い至ったのである。

旅といっても別段遠い場所に行くことはしない。都内のホテルを予約して、いつもと違う駅でご飯を食べて、夜更かしとかをして、寝る。ただそれだけ。
遠い場所に行く観光目的の旅は、誰かと一緒に行くことならではの楽しさが欲しい。だけど、ひとり旅ではそんなことはお構いなく、むしろ日常に近ければ近いほどその楽しさが増してくる。

旅は自宅から既に始まり、ここぞとばかりに非日常感を演出

ただし、私のひとり旅を行う日のルーティンは大体決まっているのだ。

まず、ホテルのチェックインの時間は夕方以降にするから、朝は比較的ゆったりと過ごす。
いつもは飲まない紅茶も淹れて、前日に買っておいたパンやお菓子を堪能する。
そう、なにせもうこの自宅から既に旅は始まっているのだから、ここぞとばかりに非日常感を演出しなければならない。
荷物は最低限に。どうせ一日だけだから着替えと簡単なスキンケアだけ鞄に詰めて荷造りは完成。
そこからは気が済むまでお洒落をする。デパコスの試供品のファンデーション、普段よりも濃い色のリップ、マスカラもバチバチに塗って、この日の為に買ったワンピースに着替えて、出かける。

ホテルでチェックインを済ませたら、早めに夜ご飯のお店探し。
希望は、一人でも気まずくなさそうなバーとか、個人経営の居酒屋とか、静かめのお店で過ごしたい。別にチェーン店でもいいけど、せっかくだからと思ってしまう。
頼むメニューは決まってないけれど、一人でも食べ切れる分くらいの量で、一、二品。
友達とか恋人とか誰かと旅に来ていればシェア出来るから多めに頼めるけど、一人の時は自重しなければ残ってしまうから。

ただひとりの私を受け入れてくれる旅は、心のもやもやがリセット

ご飯を食べたらまたホテルに戻り、身に付けていたもの全てを全速力で剥ぎ取りシャワーを浴びてさっぱりしてからコンビニスイーツで二次会をはじめる。
スマホでも観ながらダラダラして、気が付いたら寝落ちなんかしちゃって、陽の光を浴びつつ、ゆっくり起き上がってから雑に身支度を済ませ、チェックアウトをする。
たまにはいつも降りる駅の二駅手前くらいで降りて散歩でもしながらのんびりと自宅へと帰る。
そうして自宅に着いて、それはそれでほっと一息ついてまた日常へと戻るのだ。

この一連の流れを経て、私の「ひとり旅」は完成となり、自分の心のもやもやがリセットされてスッと晴れていく気持ちになる。

旅は私をひとりにさせてくれる。世界の中の一人、空間の中の一人、あらゆる意味でただひとりの私を受け入れてくれる、ような気がする。
そうして、ようやく自分自身を見つめ直すことができてはじめて、また明日から頑張ろうという気持ちに切り替われるのだと思う。
私が、自分らしく、私らしくいられる為の存在がひとり旅であり、旅をする意義そのものなのだろう。