クリスマスが近づいてくるに連れて、子どもたちが浮き足立ったように話し出す話題の一つと言えば、そう、サンタクロース論争である。
サンタクロースはいるのかいないのか、今年はどんなプレゼントをもらうのか。
話し出すときでさえ、どこかそわそわとした様子で、大人には知られてはいけない内緒話のように、その話題は子どもたちの間だけで囁かれていたように思う。
サンタクロースに会いたい!私が始めた調査とは
当時テレビで放送されていたサンタクロースの特集の番組のおかげで、例に漏れるどころか幼少期の私は疑いないサンタクロース信者だった。サンタクロースの存在を裏付ける根拠があるおかげで、堂々と話が出来るのだ。
もちろん、ただ存在を信じるだけで何も行動を起こさない訳ではない。心のどこかで沸いてくる気持ち、それはサンタクロース本人に会いたいという思い。
サンタクロースに会うために当時の私が何をしたか、お話ししよう。
まず、私はサンタクロースについて独自の調査を始めた。独自の調査というのは、例の番組から得たものとは違い、私の家にやってくるのは何時頃か?結局どこから入ってくるのか?といったような自分で確かめなきゃわからないことである。
まず大前提となる何時頃にやってくるか?という疑問についてであるが、その解決には誕生日プレゼントにもらった目覚まし時計を枕元に置いておき、時間とプレゼントの有無を確かめるという調査方法をとった。
もちろん、サンタクロースが来るのはみんなが寝静まった後という情報があるので、両親には「サンタさん来ないと困るから早く寝て!でも起きてる間に来たら教えてね!」と事前に根回しはしておく。
頭が固い子どもだったので、両親がサンタクロースとグルかもしれないとは考えもしなかったらしい。
ずっと起きていられたらいいのだけれど、大抵の場合、午前一時を過ぎたあたりで睡魔に襲われあっさりと眠りに落ちて、気づくと朝になっているのだった。
だからわかったことといえば、午前一時よりも前にはやってこないということくらいだった。意気込んでた割には呆気ない。
プレゼントに入っていた保証書。サンタクロースは近くにいる?
調査を始めてからの涙ぐましい努力は実ることなく、進展することもほとんどなかったが、あることをきっかけにプレゼントの入手場所を知ることになる。
そう、あれは忘れもしない「ニンテンドーDS事件」である。
私はある年にサンタクロースにニンテンドーDS本体をお願いした。当時、ニンテンドーDSは私たち小学生の間で爆発的な人気があった。DSは発売されたばかりでソフト数はまだまだ少なかった。
しかし、DSには、一世代前のゲームボーイアドバンスのカセットを刺せる場所があった功績は本当に大きかったと思う。
その年にサンタクロースはDSをちゃんと持ってきてくれたのだけれど、一つの大きな落とし穴があった。
私は気づいてしまったのだ。箱の中に入っていた保証書に書かれている購入店舗が、近所のヨーカドーであったことに。
サンタクロースは私の住んでいる地域の近くにまで来て、DSを仕入れていたのだ。これは本当に大事件であったことには間違いなかった。
私は母に堂々と言った。
「サンタさんヨーカドーでDS買ったんだって!ここに書いてあった!」
保証書を突き出した瞬間の、あの母の引きつった顔は今でも忘れていない。
ここまできたら誰もが「さすがにサンタクロースの正体に気づいたのでは?」と思うことだろう。
ところが私の考えは揺るぐことはなかった。なぜなら「買った場所が近くのヨーカドー……ということは、私の住んでいる地域の近くにもサンタクロースの支部があるのでは?!」という考えに至ったからだ。当時の私にとっては名推理であったけれど、今思えば迷推理であることには間違いない。冴えてるんだか、頭が固いんだか。
サンタクロースはいない。でも、誰でもなれる!
では結局、いつ私がサンタクロースの正体に気づいたのか。これが案外呆気なかった。ニンテンドーDS事件から約一年後、私は母から直接聞かれたのだった。
「今年はクリスマスプレゼント、何がいい?」
「え?」
頭の中に疑問符がたくさん浮かんだ。
「今年はってどういうこと?」
当時の私は酷く混乱していた。今年はも何も、サンタクロースがプレゼントを持ってくる代わりに両親からクリスマスプレゼントをもらったことなど今まで一度もなかったのだった。そして私は悟った。サンタクロース=両親であるということを。
両親からしたら「去年の保証書の件で気づいたのだろう。というかサンタクロースの正体について知っている年になっているのだろう」と思っていたことだろう。
残念ながら当時の私はサンタクロース強信者である。正体に気づいた瞬間のなんとも言えない寂しさのような切ない気持ちは今でも覚えている。
こうして私の長い長いサンタクロース信者生活はあっさりと終わり、サンタクロース教に手を貸す側に回った。
「サンタクロースはいるのか」と訊ねられたとして、今の私は「いない」と答えると思う。そう、サンタクロースはいない。けれど、赤い服でなくても、真っ白いもじゃもじゃなヒゲでなくても、トナカイが引くソリに乗っていなくても、両親たちの相手を喜ばせたいという気持ちはサンタクロースと同じだ。だから胸を張って答えよう。
「サンタクロースはいないけど、誰でもサンタクロースになれる!」