去年(2020年)のクリスマスの夜。私は28年間生きてきて、初めて一人ぼっちで過ごした。
住み始めたばかりのワンルームの部屋は、いつもより足元が冷たく感じた。

思い出のクリスマスはいつも家族と一緒だった

これまで私は幸せなクリスマスを家族と過ごしてきた。
幼い頃は両親がクリスマスケーキを準備してくれて、テイクアウトしたお寿司やピザを食べたり、25日の朝に届くプレゼントにワクワクしながら、サンタさんへお手紙を書いたりしてたっけ。
小学校を卒業してからは、サンタさんが枕元にプレゼントを置いてくれることはなくなった。その代わり、母は毎年12月になると、クリスマスプレゼントに洋服でも買いに行こっか、とショッピングモールに私と妹を連れて行ってくれた。

20歳を超えてからは、クリスマスにかこつけて家族みんなでお酒を飲んだりもした。
「なんかクリスマスって感じしないね」
「クリスマス過ぎたらあっという間に年末だね~。早いなぁ」
なんて言いながらテイクアウトしたモスチキンを頬張って、お酒を飲み、コンビニスイーツを食べるというクリスマスがここ最近の定番だった。
クリスマスの夜、一緒に過ごす彼氏はいなかったけど、私のそばにはいつも家族がいてくれた。

彼と過ごすはずだったクリスマス。連絡は来なかった

だけど、去年は違った。
念願の一人暮らしを始めて約1ヶ月。当時の私には曖昧な関係の年上の彼がいた。彼が「クリスマス一緒に過ごせたらいいね」とはにかむから、私は家族とも、友人とも予定を入れず彼のために25日を空けておいた。
それなのに、12月半ばに連絡を取り合ってから一度も彼から連絡はなかった(結局、連絡があったのは年末だった)。自分からも連絡すればよかったけど、そんな彼に縋り付いている自分が惨めなのも、情けないのも全部分かっていたから、連絡することは結局なかった。
25日の一週間前。友人から「25日に知り合いのオンラインセミナーがあるんだけど、良かったら聞いてみない?」と連絡があった。私は半ばやけになってその連絡に二つ返事をした。

25日の夜。仕事を終えて一人暮らしの部屋に戻る。
何食べようかな……。冷蔵庫にうどんと卵があったから適当に釜玉うどんでも食べるか、そんなことを考えながら冷蔵庫を漁っているとスマホが鳴った。
「もしもし」
「あ、お母さんだけど。もぴちゃん今何してるの?」
「家だよ。今から一人でご飯食べるとこ」
「そうなの、それじゃお母さんちょっと近くまで来てるからそっち向かうね」
「え、ちょっと、まってよ」
私の返事も待たずに母は電話を切り、あっという間に私のマンションまでやってきた。

「もぴちゃん一人?良かったらお母さんとお父さんと夜ご飯食べに行かない?」
「ごめん、今日20時30分からオンラインセミナーがあってそれ受けるから無理だ」
「そうなの……、ご飯なに食べるの?」
「……。うどんでも食べようと思ってるけど」
「分かった、ちょっと待ってなさい」

母はそう言うと、マンションのすぐ下にあるコンビニへと入り、5分後に出てきた。
「はい、これ」
袋を開けると、カップのビスクスープとレジ横で売られているチキンとサラダが入っていた。
「せっかくのクリスマスなんだから、ね。本当は一緒に食べたかったけど。それじゃ、またね」
母はそう言って、あっという間に車で私のマンションを後にしたのだった。

すごく温かくて、美味しくて、食べながら自然と涙がこぼれた

店内で温めてもらったようで、袋を開けるとほかほか湯気を立てて美味しそうなチキンにビスクスープ。
お腹が空いていたのか、私はスープを一口飲み、すぐにチキンにかぶりついた。サラダも、スープも、チキンも普段食べるそれらよりもすごく、すごく美味しく感じた。
どれもコンビニの出来合いのもので、母が作ってくれたものではなかったけれど、なんだかすごく温かくて、美味しくて、母の優しさを感じて、食べながら自然と涙がこぼれた。あっという間にそれらを平らげて、私はその後のオンラインセミナーに臨んだ。

母は当時の私の状況を知ってか知らずかよく分からないけど、一人暮らしを始めても娘のことを気に掛けてくれる母の優しさがすごく心に沁みた。

あれから1年が経ち、私は初めて大好きな彼とクリスマスを過ごす予定だ。
同い年の彼は私のことを大切にしてくれて、将来も考えて真剣にお付き合いをしている。そんな彼とクリスマスを一緒に過ごす予定が入っていることが嬉しい。クリスマスプレゼントを考えたり、部屋を飾りつけしたり準備は色々あって大変だけど、その準備さえもすごく楽しいし幸せだ。

去年の母の優しさを食べて、自分の惨めさや情けなさにちゃんと向き合うことも出来たし、曖昧な関係を断ち切ってそこから立ち直ることも出来た。だからきっと、今年のクリスマスは私の様子を心配して、突然電話をかけてくることもないだろう。

お母さん、今年のクリスマスはきっと大丈夫だよ。
だけど何年経ってもコンビニで売られているチキンを見るたび母の優しさを思い出すだろう。
今年は良いクリスマスになりますように。