クリスマスには、毎年何かしらの思い出がある。
思い出、と言ってもそれはエッセイにおこすほど起承転結のある話ではなく、ただいつもより少しトクベツな日常にすぎない。
でも、クリスマスの思い出をたどった時に、記憶の片隅で忘れてしまいそうになっていた、ある年のクリスマスの記憶を文字にしたくなった。

当時、絶大な人気を誇っていたドールハウスをお願いした

それは私がまだ小学校低学年で、ピュアな心のもとサンタクロースの存在を信じていた頃。私はその年のクリスマスに、当時女の子の間で絶大な人気を誇っていた某ドールハウスをサンタにお願いしたのだ。
精巧にできたドールハウスに、インテリア、暮らしているのはうさぎや犬などの愛らしい動物のファミリー……。

当時はそれを持っているかいないかが女子の間でのトレンドであり、ステータスだった。でも、これがなかなかの値段。メインのドールハウス1つとっても、高いものだと平気で1万からするし、家を買えば当然住まわせる人形が必要になり、じゃああの家具が欲しい、食器が欲しい、服が、食べ物が……と、つまりある程度遊べる一式を買い揃えるとそれなりの出費になるのだ。

いい子にしていれば欲しいものを何でも届けてもらえると思っていた

当然、我が家では何でもない日にぽんと買ってもらえるようなおもちゃではなかった。
そんな某ドールハウスデビューを果たしたい。だから小学生の私はここぞとばかりに、クリスマスにお願いをしたのだった。

まだサンタを信じていた時期。値段に関係なく、いい子にしていれば欲しいものを何でも届けてもらえると思っていた。
お願いしたのは、発売されたばかりの新作のドールハウス。赤い屋根が可愛らしい、CMで何度も見た憧れのお家。
住人の人形や家具などは頼まなかった。サンタさんが持ってきてくれるプレゼントはひとつまで、という両親の言葉を律儀に守っていた(今の私の性格からじゃ考えられない。大人になるってこういうこと)。それに、備品についてはそんなに高いものではなかったので、お小遣いやお年玉で少しずつ増やしていけると思ったのだ。
とにかく、1番お金のかかるお家だけでも手に入れば、あとは何とかなると考えていた。

まさかのサプライズで、追加のプレゼント。でも話はそこで終わらない

そして、待ちに待ったクリスマスの朝。
目が覚めて、真っ直ぐにツリーが飾ってある部屋へ行き、見つけた。
クリスマスカラーの包装紙に包まれた、大きな四角い箱。多分、ドールハウスの大きさ。きっとそう。おもちゃ屋さんで何度も目にした、あの箱の大きさとそっくり。ワクワクしながら包装紙を引っぺがし、出てきたのは期待通りの、赤い屋根のドールハウス!
それだけでもかなりの喜びだったのだが、何とすぐに遊べるようにスターターセットとして、家具と人形まで用意されていたのだ(今になってしみじみ感じる、母の優しさ)。

お家だけだと思っていたところに、まさかのサプライズで追加のプレゼント。
そんな嬉しい驚きのクリスマスで終わるはずが、29年後に思い返して首をかしげることになる原因はここからだ。

母よ、なぜあのチョイスだったのか。ついに真相を聞く時が

サプライズでついてきた人形を手に取ったとき……パッケージに書いてあった商品名が“カワウソファミリー”。定番の、うさぎやリスの一家がそこにはいるのだと思っていた私にとって、予想の斜め上どころか頭上高く超えていったチョイスだった。
しかも、何とも形容しがたい……そう、可愛くないわけではない……。でもうさぎやリス、犬などを予想していた思考的にはどうしても……。

母よ、なぜあのチョイスだったのか。
来週はいよいよクリスマス。ちょうど実家にクリスマスを祝いに帰省する予定だ。29年ぶりに思い出した、衝撃のドールハウスデビューの真相を聞こうと思う。