つい最近、このコロナ禍に、願いを込めてパスポートを更新した。
沢山のスタンプが押されたパスポートは、次の旅へ私の背中を押してくれる宝物。
旅を始めたのは10年前。
オーストラリアの紫色の大きな木を忘れない。

旅から戻るといつも思い出すのは、第2の家族がいる紫色の国

世界中様々な国を歩いた。
がむしゃらに仕事をする合間に、忙しく旅をするのが好きだった。
旅の時間は若い私にエネルギーを与えてくれた。
初めて見る色、知らない匂い、わからない言葉の中で伝わる感情。
パリで夜中に迷子になったこと。台湾で携帯を盗まれたこと。
グアムで財布を落としたこと。ペルーで高山病になりかけたこと。
不注意による小さなトラブルが多く、終始絵に描いたような旅は1度も経験していない。そんなことも笑い話にして懲りずに旅を続けてきた。

笑顔とありがとうの言葉さえあれば、私はどこへでも行ける。
リュックひとつで、なんてカッコいい見た目では全くなくて、大きなスーツケースに、渡す予定は半分くらいのお土産をぎゅうぎゅうに詰めて、1人寝起きするだけの寒い寒い箱に帰る。ただいま。
おかえり、なんて言ってくれる人はいない。
旅から戻るとベッドでいつも思い出すのは紫色の国で過ごした時間。
ホストファミリーがくれるおかえり。
また会いたい。第2の家族に会いに行こう。

おかえりを言ってくれる人が世界にいて、ただいまを返せる場所がある

紫色に帰る準備を少しずつ進めている中でコロナがやってきた。
これも運命、2人で過ごし始めた温かい箱で穏やかに過ごす。
コロナのせい という期間限定の魔法の言葉を使って色々な事から逃げた。
旅に出られない理由がある絶望と安心のよくわからない感情。
苗字が変わって得たなんとも言えない安心感と幸せな束縛感。
紫色を思い出す。これでいいのかな。

出張の多い彼はいつも「ただいま、お留守番ありがとう」の優しい言葉をくれる。
温かいご飯をよそいながら「おかえり」を返す。
――あ、もう帰る場所は温かい。おかえり、も帰ってくる。

コロナは20代の2年とタイミングと紫色を一瞬奪おうとしていたけど、温かさまでは奪わなかった。
おかえり、ただいま、が私に生きる実感を与えてくれる。
おかえりを言ってくれる人、場所、匂いが世界中にあって、ただいま、を返せる場所がここにある。
その時の確信が心の穴を埋めてくれた。
おかえり、ただいまのやりとりが旅に出る理由。私に必要な時間。
旅の最中は知識と経験を増やし、帰る場所とおかえりの安心がある。
私にとってこれからの旅の理由なんてその程度で十分すぎる。

紫色から今度はぬくもりに帰る。ただいま、を言うために私は旅をする

きっと前のようにはいかないだろう。
マスク越しにも私の求めるただいま、はあるだろうか。
色々な障害をもこれまでのように笑い話にできるだろうか。
きっと大丈夫。紫色はそっと待っていてくれている。
日本にも待っていてくれる人がいる。
おかえり、ただいまは永遠に私を安心させてくれる。

ただいまの紫色を目指して進む中、1年後の温かいおかえりを求めている。
紫色から、今度はぬくもりに帰る。
ただいま、を言うために私は旅をする。
ただいま、お留守番ありがとう。