大学4年生の冬、わたしには卒業後に所属する居場所はなかった。就活競争に負けたからだ。
当時はどこにも就職できない劣等感や最後までがんばることのできない自分がとことんキライで、毎日泣いて目を腫らしては、いつの間にかベッドからも動けなくなった。
とりあえず卒業だけはしなければと卒業論文だけはなんとか書き終えたが、漠然とした未来への不安はさらに大きくなり、いつもわたしの目と胸を押しつぶしていた。
卒業前、両親が提案した。
「旅に行ってこい」
提案というより半ば命令形だった。

卒業式の次の日、人生に迷ったわたしは旅人になった

うちの両親は少し変わり者で、昔は旅人だった。
約30年前、オーストラリアのケアンズにワーキングホリデーをしに行った者同士が現地で出会い、結ばれてわたしが生まれた。
彼らもまた迷える若者であり、世界のどこかに居場所を探し、旅に出ていた。
だから、人生に迷っているならとりあえず旅をしてこいというのだ。

他にすることもない。しなきゃいけないこともない。家で殻に閉じこもっているばかりならばいっそ外に出てみよう。
行きたいところはどこだろう。
神様に会いたい、救ってほしい、そう強く願ったから日本の神様の代表である伊勢神宮にお参りに行くことにした。
卒業式の次の日、真新しいバックパックに必要なものだけを詰めて、わたしは旅人になった。

電車に乗って、流れゆく車窓をただ眺める。街中の景色からどんどん緑が増えて山が増えていく。変わりゆく目の前の風景に、久しぶりに「いま」という瞬間が自分の心の中に鮮やかに流れていくのを体感していた。
目的地に着けば、一生懸命に観光する。外宮から内宮へ。猿田彦神社も聞いたことがあるお神社だと思い、お参りした。
自分の足で知らないところを散策して、五感全部を使って知らない景色を覚えていく。
それだけで私には十分すぎるほどの刺激があったけれど、旅の醍醐味はこの後にやってくる。

さまざまな人と出会うため、旅の宿はゲストハウスと決めている

旅の宿はゲストハウスと決めている。
はじめは旅費の節約にしたいと思っていたけれど、こんなにも人との縁に簡単に恵まれる場所は他に思い浮かばない。
わたしに旅が必要な理由。それはさまざまな人と出会うため。
どうしてそれが必要か。
いろんな生き方があっていいのだ、と気付かされるからだ。

ゲストハウスには旅人が集まる。いろんな考えやバックグラウンドを持った人が集まって旅の情報交換や、親しくなれば一緒にご飯を食べに行ったりしながらなぜお互いが旅をしているのか語り合う。
どうしてこの地に来ようと思ったのか、何をしているのか。
赤の他人にほど、深刻な悩みは言いやすいと旅の中で学んだ。
「自分探しの旅をしています」
すると、みんなそれぞれの人生を省みながら、それぞれの人生のストーリーを教えてくれる。
僕も大変だったよ、わたしも悩んだよ、こんな道もあったよ、とたくさん情報をくれる。
そうしていろんな人に出会って、生き方が何通りもあると体感して、何通りでもあるのだから、就職だけが道ではないと、「好きに生きたらいい」という自由な考え方をようやく自分の中に取り入れることができた。

自分の心が赴くままに気ままに。日本周遊の旅は今のわたしの原点

旅先で出会った人におすすめを教えてもらいながら、次の目的地を決めて旅をしていく。
「ここに行かなきゃいけない」がなく、自分の心が赴くままに気ままに進んでいく。
熱海、鎌倉、東京、仙台、女川町、角館、北海道、金沢、京都。
そうやって過ごした1ヶ月半の日本周遊の旅は今のわたしの原点であり、いつまでも生きる活力として記憶にこびりついている。

だから、わたしがオススメするのは悩める人ほど、少しの勇気とバックパックを持ってゲストハウスに赴いて欲しいということ。
そこでは、意外と素直に自分の悩みを打ち明けることができて、きっと同じように悩んでる人がいて、共感があって、何か打開策が見つかるかもしれないし、自分が何かひらめきを見つけるかもしれないから。