「目的」もなく、いつもと逆のホームの電車に乗った旅で見つけた幸せ

私は目的がないと旅に行けない人だった。
歴史的建造物、展示会、絶景、自然、なんでも良いから、そこに行く理由がないと、旅に行くことはなかった。
未曾有のウイルスが私たちの生活を一変させ、日々見えないウイルスとの長い戦いに、私の心は知らず知らずのうちにすり減っていた。
「それでも私は幸せに生きている」
そう思い込んで生活してきた。
確かに、大学卒業時には、奇跡的に緊急事態宣言が解除され、大学の卒業式は執り行われ、仲間に感謝を伝え、別れを告げることができた。
卒業後も自分が幼い頃から夢見ていた仕事に就き、夢のような時間を過ごした。その仕事が終わった後も、自分が輝ける世界で仕事をしていて、現状に大きな不満はなかった。
ただ一つだけ言えるとするならば、「旅に行けない」。
仕事の契約上、週の休みはたった1日。
旅に行けなかったのだ。
確かに仕事後から動き、一泊二日のプチ旅行には行ける時間はあったけれども、
私の旅には目的が必須なので、その目的を達成するのには時間が足りない。
知らず知らずのうちに、体が、本能が旅を求めていたのだ。
4ヶ月ぶりの土日休み。
無駄にしまいと旅行の計画を立てた。
「さて、どこに行こう」
私の旅には、目的が必要だ。
「何を学びに行く?」
それとも、
「誰に会いに行く?」
「好きだった彼に会いに行く?」
「いやいや、さすがにそれは重いでしょ」
と自分の中で会話を繰り広げるが、そう簡単に答えは出ない。
そうこうしているうちに、当日はやってきた。
とりあえず仕事後そのまま『青春18きっぷ』を購入し、いつもとは逆のホームから電車に乗り込む。
見たことのない景色が過ぎていく中で、とりあえず今日向かえそうな場所で宿を探す。
「格安のゲストハウスでいいか」
ただのトンネルなのか、夕方の暗がりなのかわからない外の風景に飽き、ふと最近の恋愛を思い返す。
「あまりいい恋愛とは呼べないな」
そう心で呟きながら、電車に揺られる。
乗った電車の終点は、外の風がいやに冷たく、駅も暗い。
最近の行いの悪さの嫌気を表しているようだった。
宿についても他の客は見られない。
そこでやっと気づく。
「今回の旅の目的決めてなかった」
私の中の当たり前が崩れた瞬間だった。
そこからはとにかく、心の赴くまま動いた。
普段は食べない1500円くらいするハンバーガーに齧り付き、誰も入っていない怪しい銭湯に入る。
コンビニに行きたくてもかなり歩かないとないような田舎町だった。
だけど湯上がりの冷たい風がやけに心地いい。
宿に戻ると、一人の青年がラウンジにいた。
なんとなく話していると、共通点が多く見つかった。
「なんだか気があうな」
なんだか嬉しかった。
少し浮ついた気持ちで個人スペースに横たわり、目覚まし時計をかけずに寝た。
翌朝、気持ちの良い目覚めをし、宿の下の喫茶店で朝食を食べることにした。
おすすめは、クリームチーズハニートーストだって。
「こういう時は、ただのトーストにホットコーヒーじゃ?」
と思いつつ、この旅にルールなんてものはない。
そう思った私は、おすすめのクリームチーズハニートーストとホットコーヒーをたのんだ。
人気俳優のエッセイ本を手にし、数ページ読んでいると、目の前にキラキラと輝く蜂蜜がたっぷり乗ったトーストがやってきた。
トーストをひとちぎり、クリームチーズをひとのせ、それをホットコーヒーで流す。
「しあわせ」
そう呟いていた。
自分は満足した生活をしていると思っていたけれど、それも自分のルールで縛っていたのかもしれない。
ルールも目的もなにもない心の向くままに動いたその旅で私は、幸せに出逢っちゃったのだ。
「みつけた、私だけのしあわせ」
これだから、旅はやめられない。
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