小さい頃は弟とよく喧嘩していた。結局折れていたのは私

両親は私が弟のことを好きではないと思っている。
なんとなく察してはいるが、訂正はしない自分がいた。

弟は知的障がいを持っていた。
小学校と中学校は特別学級に通っていた。
同じ小学校の普通学級に通っていた私はトラブルが起きないかいつもハラハラしていた。

小さい頃は弟と喧嘩をすることが多々あった。
弟が癇癪を起こして私のゲームを壊したり、借りた漫画を破ったり。
その度に私は怒ったけど、結局折れるのは私。
怒って母に訴えてもどうにもならないと分かってから、諦めるようになった。
次第に弟と距離を置き始め、ほとんど話さないまま私は逃げるように家を出た。

飲めない弟が私を家まで送ってくれた。2人きり、無言の車で弟は

仕事を始めて、実家のことは考えないようになっていた。
もう家族のしがらみから逃れて、1人で生きていきたい、そんな馬鹿なことを考えていた。
しかし勤め先がブラック企業で1年ほどでうつ病になった。
毎日死にたいとしか思えなかった。
そんな私を見兼ねて、両親が実家でご飯をご馳走してくれた。
コンビニ食ばかりだった私には温かいご飯が嬉しかった。そしてうちの家で唯一下戸で呑めない弟が私を家まで送ってくれた。
2人きり、無言の車。

私は急に呟いた。
「私が死んだらどうする?」
弟がなんて言うのか気になった。
驚く?怒る?泣く?
私は様子を伺った。少し時間を置いて弟は言った。
「……お線香あげる」
私は吹き出してしまった。思いもよらない斜め上な回答。
それでも。
「そっかぁ……お線香あげてくれるんだ」
そうだなぁと妙に納得してしまった。
死んだ人間にはもうお線香をあげることしかできないんだよなと。

今までだって弟に救われることがきっとあったはず。やっと気づいた

今まで病院の先生や友人、家族に色んな言葉をかけられたけど、その弟の斜め上な回答が妙に心に響いて。
私は久々に心から笑っていた。
それから私はこいつとずっと姉弟なんだなぁと心の整理がついた気がした。
ずっと弟は守るべき存在でしかないと思っていた。
両親が居なくなった後、私しか弟を守れる人はいないのだからと。
だけど違うのかもしれない。
今までだって弟に救われることがきっとあったはずだ。
だけど、我慢しているのは私だと見て見ぬふりをして、ひとりの世界に閉じこもっていた。

やっと気づいた。私たちは姉弟だ。
きっといつだって反発しながらも支え合って生きていくんだろう。
そしてそれが悪くないと思える。
こんな小っ恥ずかしいこと両親には言えない。
だけど安心して欲しい。
私たち割とちゃんと姉弟だよ。