わたしの食の概念を変えた本。小川糸さん、ポプラ社からの「食堂かたつむり」。
主人公はりんごちゃんこと倫子。夢を追いかける彼女はある日、大好きな恋人に何もかもを盗まれ呆然とする。元気が出ない。気がつけばショックで声まで出ない。
実家に戻っておかんと豚との、2人と1匹暮らし。そこで始める食堂かたつむり。このお店の名前がなんとも言えなく、いい。レストランでなく、食堂。のんびりほわんを助長する、かたつむり。
古家具や布、木の枝や透き通った石まで使って1から作り上げた店舗もきっと自然派かわいいお店。悪意にまみれて「食堂エスカルゴ」と間違われた時のちょっとムッとした彼女はすごくかっこいい。

人生何度目かのうつの時に、初めて「食堂かたつむり」に出会った

食堂かたつむりでは、安心安全な食材を使って1日1組のお客様のためだけに営業をする。料理のだいすきなりんごちゃんが、食材の声を聞きながら作る料理は食べると幸せなことが起こるとたちまち有名に。

この本を初めて読んだ時のわたしは、人生何度目かのうつで、もちろん食事も美味しくないし、摂れなかった。声も出なかった。
もともと食べることはすきだ。りんごちゃんの作るきっとチャーミングだろう料理や、聞いたことのない料理を想像したり、ネットで検索してみたり。
お野菜の甘みとほんのちょっとのお塩だけで作る「ジュテームスープ」。いつか、いつか、食べてみたい。わたしは元より和食が好みで、つまり薄味であっさりしたものがすきなのかな、と思う。地味は最高の褒め言葉。イコール滋味、だと思っている。

それからいっときのりんごちゃん同じく、いのちはできるだけ含まれていない方がいい。
今時の飲食店では和食料理屋さんも、オーガニックや薄味も、実はなかなかいただけない。SNSでパッと華やぐ可愛く豪華なものの方が人気な風潮にあるのだと思う。外国のものは時代が進むほど取り入れられる気もする。

自炊をするようになったわたし。まず作ったのはスープ

お店が出してくれないものを、勝手にとても難しいもの、と決めつけていた。実際はわたしのすきな食堂かたつむりのようなレシピは、時間こそかかれどそんなに難しくないようで、作ってみればいいのか、とはっとする瞬間があった。
「ジュテームスープ」はわたしの中でカレーのようなイメージなのだけれど、作り方はお水を加えてゆーっくり、時間をかけて鍋にかけるだけだ。どれもだいたいそんなものらしい。特別な調味料や器具は要らない。だってほら、地味なんだから!

それから自炊をするようになった。その後自炊をたのしむようになった。中学か高校の頃だと思う。
まずはスープ。お野菜が何種類か入って、コンソメとか鶏ガラで味をつける。なんだこんなに簡単だったのか、と拍子抜けした。
汁物はそこから何段階かに分けてレベルアップ。お味噌汁、生のトマトから作るミネストローネ、かぼちゃやジャガイモ、枝豆なんかのポタージュ。段々と憧れに近づいてきた。ジュテームスープまでもう少し。

できるだけ自然の形のままで、作って味をつけて食べるように

スープならちょっと調子の優れない時にも食べられる。元気な日にお鍋いっぱいに作っておけばいい。あまり元気がでない時、これはきっとわたしだけではないけれど、おやつとかジャンクなものとかそういうものなら食べられる気がするというか、そういうものが欲しくなるというか、そんなものでついお腹を誤魔化してしまう。

でも具合が良くないのに、刺激的なものを食べて元気になれるはずもない。スープなら大きな鍋に作り置きしておけるし、簡単な常備菜もいくつかタッパーに入れておけばいい。それも喉が通らなさそうな時、フルーツを取り入れるようにした。スーパーで果物を買ったり、冷凍カットフルーツを常備しておいたり。
化学調味料もなるべく使わない。りんごちゃんのお塩をパラパラっとしただけのジュテームスープをすごく素敵だと思ったから。とにかくできるだけ自然の形のまま。自然のものから。作って味をつけて食べるようにしよう、と意気込んで今のわたしはいのちを繋いでいる。

以上がりんごちゃんに教えてもらったこと。ありがとう。