お得に、なおかつ時間も有効に。そんな旅行が好きだった

わたしは旅行が好きだ。
友人と計画を立てるためにカフェでノートを広げたり、本屋さんの旅行本コーナーを見て「旅先ではこれを食べよう」と決めたり、「どんな非日常なことが待っているんだろう?」と出発する前からわくわくさせてくれる、旅行のそんなところが大好きだ。

社会人になって間もない頃、せっかく旅行に行くのだから少しでもお得に、時間も有効に使いたいと思っていた。何時にここを出発して、あのお店で名物を食べて、お土産は誰に何を買う。細かいところまで計画して予定通りに時間いっぱい楽しむのがわたしの旅行の過ごし方だった。

わたしの旅行の過ごし方は少しずつ変わりつつある。あの旅行でいまのわたしに必要な大切なものに気がつくことが出来たから。

コロナ禍に結婚。この情勢で新婚旅行は思い切り楽しめないことに

2020年、わたしはコロナ禍に結婚をした。「結婚式は派手じゃなくても新婚旅行は思い切り楽しみたい」とずっと思っていたけれど新婚のいま、自由に旅行することは叶わなかった。旅先の候補として挙がっていた地域の感染状況や緊急事態宣言、交通機関の運休・減便、そして出入国の厳しい現実……。

制限がある中でせめてもの贅沢をと、当時住んでいた県のいわゆる"良い宿"に2泊することにした。

いままでのわたしなら近場のご飯屋さんを細かく調べたり、お土産リストを作成したりと張り切っていたに違いない。
だけども今回は違う。

その頃のわたしは初めて実家を離れ、不慣れな家事と仕事の両立に疲労が溜まっていた。ストレスの発散の仕方もいまいち分からずになんとなくもやもやする毎日から抜け出せずにいた。

思い描いていた形とは違うけど、「良かった思い出」が刻まれた旅

そこで、新婚旅行では日々の家事と仕事の両立によって溜まった疲れを軽減させるべく『何もしない』時間を夫と過ごすことに決めたのだ。
"良い宿"はわたしたちの『何もしない』時間を素敵に過ごさせてくれた。自然な囲まれた施設内でのんびりお散歩をしたり、お部屋でフレンチプレスコーヒーを淹れながらお話してみたり、夜は温泉に入り露天風呂から星を眺めてみたり。慌ただしい毎日で出来なかった夫との何気ない幸せな時間を過ごすことができた。

結婚前に思い描いていた新婚旅行とは違ったけれど、「新婚旅行できて良かった」という夫婦の思い出がしっかりと二人の胸に刻まれた。
結婚前、当時彼氏だった夫との旅行でも計画を詰め込むことが多かったので「何もしない時間がこんなに幸せなんて、わたしたちも大人になったね」と言って笑いあった。

旅行がわたしに非日常を与えてくれることはいまも昔も変わっていない。いまのわたしに寄り添ってくれる『何もしない』ことの非日常さ。
またこの時間に癒されたい。

わたしたち夫婦の夢は、新婚旅行で訪れた"良い宿"に再び泊まること。
これから先、子どもが生まれ新たな人生が始まると思う。何年後になるか分からないが、また二人であの新婚旅行を思い出しながらゆっくりと過ごす日を夢見て毎日を過ごそうと思う。