こんな大人になってはいけない。2021年の大晦日、同い年の上司が私の事をそう表現した。
大晦日と言えど、ほぼ年中無休の接客業に休みはない。むしろ、最後のかき入れ時だ。大忙しの午前中を越え、午後から人の波が引き始め、閉店30分前には殆どのお客がいなくなった。

開店から出勤だった私は夕方頃に仕事が終わり、事務所で帰り支度をしていた。5月から勤め始めた今の会社に慣れ始めたとはいえ、騒がしい店内から静かな事務所に帰ってきてホッと息をついた。
同じ時間に上がりだった上司と、来年の春からこの会社に就職が決まっている学生のアルバイトの女の子も事務所に戻ってきた。

「こんな大人になってはいけない」。思わず2021年を思い出した

いつもの他愛のない話だった。ただ、大晦日という事もあって上司は「今年はどんな年だった?」と私と彼女に投げかけた。
若くてまだ年上との会話の経験が少ないアルバイトの彼女は「え~、そうですねぇ、普通でした」と気を使いながら答え、「普通ってなんだよ~」と茶化されていた。
その後「俺は波乱万丈だったわ~」と上司が言って、2、3理由を述べた後、2人の視線が私に自然と集まった。2人の目に促されて、私は少し考えた後……。「私は今年、3回職が変わりましたね」と言った。
その一言に2人はびっくりしたようで、上司は上記の台詞をアルバイトの彼女に言ったのだ。

こんな大人とは……?私の頭はすぐに様々な言葉を探した。
仕事の続かない大人、気が多く責任感のない大人……いつまでもフラフラと職を決めない大人?……要はダメな大人?
上司の彼は決して私を貶めようとしたのではない。ただ純粋に世間の答えを口に出しただけだ。それを言っても私が傷つかないことをちゃんと分かっているくらい、関係性は築けている。
だから、私もその一言に目くじらを立てたいわけではない。ただ私はその一言で一気に2021年の事を走馬灯のように思い出したのだ。

世間様の考えに逆行する生き方だって、喜びや面白さに満ちている

務めた先の同僚やお客さんや上司の事。仕事をしたことで得た知識や経験。役職がなくなったことで純粋に友達になれた人もたくさんいる。笑顔の彼らが私に手を振っている姿がすぐに想像できて、私の中で『こんな大人』の形がグルリと変わったのだ。
そして、あぁ、こんな大人って……最高じゃない、と心が笑った。すぐに私は彼の言葉に、うんうん、と頷いた。そして、彼女の目を真っ直ぐ見て言った。
「そうだよ、こんな大人になっちゃだめだよ。楽しすぎるから」
きっと彼女も上司もこの会社から離れない。そこには立派な責任と大人の考え方がある。私もかつてはそうだった。そこにいても素晴らしい。
だけど、そこにいない人は駄目だという感情が芽生えてしまうのは勿体ないと思った。1つの場所に留まることが良いとされている世間様の考えに逆行する生き方にだって、甘美な喜びと面白さに満ち満ちている。
だからと言って、この考えを知ってほしいとは思わない。知った方が良いなんて死んでも思えない。だって彼らには今は必要のない考えだから。

「こんな大人」の私が何をしでかすのか。胸に渦巻くワクワク感がある

私の一言に、上司も彼女もキョトンとしていた。きっと想像とは違う言葉が返ってきて虚を突かれたのだろう。
その顔の可愛い事。思わず笑ってしまって、「何はともあれ、今年はお世話になりました」と場を変えるために言えば、2人も「こちらこそ」と笑った。

私の初出勤は2日からだったので、正月もそこそこにすぐに日常は帰って来た。忙しさにかまけて新年の目標なんて考えてなかったけれど、文章にするのは良い機会だから、とゆっくりと考えてみた。
だけど『こんな大人』の私が何をしでかすのか、皆目見当もつかない。ただ、胸に渦巻くワクワク感があって、コレが何になっていくのか楽しみだ。あぁ、でも、何が起こるのか心配でもある……。
う〜ん、やっぱり、こんな大人になってはいけない。