「男っていうのはね、自分の好きな女と仕事とが三角関係になるとものすごく燃えるものなのよ。どうしても『仕事』というもう一人の男から、女を奪いたくなるものなのよ」(林真理子 著『中島ハルコの恋愛相談室』文藝春秋)

——だから私は今年、全力で仕事を頑張るんだ。
そう思わせた2021年のあれやこれ、禊の意味も込めて、書いてみようと思う。

心が限界を迎えた。気がつけば、転職サイトに登録していた

2021年、私は新卒で入社したマンモス企業を退社した。
6月に駅のホームで、「飛び込み自殺をする人って、思い切って飛び込むんじゃなくて、疲れ切ってふらふらしている時になんとなく呼ばれるのかもしれない」と思ったことがきっかけだった。

お給料も福利厚生も良くて、労働環境も劣悪ではない、思い返せば恵まれた職場だった。それでも、残業に追われて自分の時間がなくなり、その場にいない人の悪口を聞かされ、プライベートでは寂しさを押し隠しながら親友の結婚を祝い、私の心は限界を迎えていたのだと思う。

寂しくて、つらくて、とにかく何かを変えたくて。気がつけば、転職サイトとマッチングアプリの登録を済ませていたのが7月のこと。

なんとか「本命」企業への内定を勝ち取り、そして「本命」の恋を失った

最初のうちは楽しかった。世の中にはこんな仕事があるんだと、求人を見るだけでも面白い。アプリでも、思いの外たくさんの人から「いいね」をもらえて、自分を肯定されているようで嬉しかった。この会社はもういいや、この人はちょっと違うかな、なんて、贅沢にも自分からお断りすることもあった。

そうやっているうちに、この会社に行きたい、この人とお付き合いしたいと思う「本命」も出てきた。
「本命」は会社でも人間でも、他とは一線を画す存在で、その存在を認識した瞬間、他の候補が色を失う。そうなってしまうと、「本命」とうまくいかなかったらどうしようと、単純に楽しめていたやりとりが急に怖くなる。
自分の心が疲弊しているのは分かっていたから、とにかく傷つかないように、履歴書といいねを手当たり次第に送りつける。想像より遥かに多いレスポンスに、こんなの全部返せないとしんどくなる。
安定した職を辞すことへの不安とか、なんだかんだ優しい職場の人たちを裏切っている罪悪感とか、ついでにワクチンの副反応とか。
色々なものに負けそうになりながら、私はなんとか「本命」企業への内定を勝ち取り、そして、「本命」の恋を失った。

世界中の誰よりも愛せる、信じられないくらいに魅力的な私になる

そんな中たまたま出会ったのが、冒頭に引用した言葉。バリキャリバツ2の「最高のオバハン」が、恋に仕事に悩む主人公に放った言葉。
本気で仕事に取り組む女性は最高に魅力的なのに、この国には仕事が面白くない、どこかにいい男はいないかと言う女ばかり。だからこそ、今までやらなかったことを、出来ないと思っていたことをやって、仕事に夢中になりなさい。そうすればきっと男は現れるわ、と。

恋愛がうまくいかなかったこと、友達の結婚ラッシュに追い詰められていること、自分の体調面での不安のこと。
2021年、「女」としての私は心をずたずたに引き裂かれるような気持ちを消化しきれず、そのことが望むキャリアのへの新たな一歩に、ほの暗い影を落としていた。

でも、もし、懸命に仕事に取り組む私を良いと思う人がいるのなら。真っ直ぐに前を向いて歩き続けることが間違いではないのなら。「試合に勝って、勝負に負けた」なんて思っていたけれど、勝負のほうは今、まさに始まろうとしているんじゃないか。

そんなこんなで、今年の目標。私は今年、全力で「婚活」します。
でも、アプリじゃないし、結婚相談所でも、友達の紹介でも合コンでもないやり方で。ただ全力で、目の前の仕事に取り組んで、とにかく色々なことをやってみよう。
そうやって、たくさんの失敗を重ねて、きっと何度もひとりで泣いて、そうしてまた、前を向いて歩いていきたい。
それって最高に格好良くて、そんな私を、私はきっと世界中の誰よりも愛することができる。……なれるよ、きっと。信じられないくらい魅力的な女性に。

だから、待ってなさいよ、未来の「大本命」。
貴方の心を撃ち抜くためにも私、全力で、お仕事頑張っちゃうんだから。