「俺ん家来る?」。もしもあの日に戻れるなら、私はどう答えただろう

宣誓。私はここに、2022年は自分の心をむやみに何度も殺さないことを、誓います。

2021年が、あの事が、もう過去の話になってしまったなんて、にわかには信じられない。
年を跨いだら別の世界の事として受け入れられるかと思っていたけど、ジャニーズのキラキラした姿を見ながら1月1日が過ぎて、もうやっぱり思い出には出来なかった。

苦しくなる。去年は本当に何度も何度も、自分で自分を殺してきた一年だった。
苦しかった。本当に死んでしまいたいほど苦しかった。
悩んで、泣いて、もう好きじゃないからと言ったのに次の瞬間には手を繋いで、また泣いて、自分を何度も何度も殺した。
好きじゃなくても、彼女がいても、自分のことを好きでいる人のことは口説いてもいい時代になっていたから。
「俺ん家来る?」
もしもあの日に戻れるなら、私はどう答えただろう。

大学に入学して、部活に入って、マネージャーになった時から推していた。好きだった訳ではない。「好き」と「推し」は全くの別物だ。
年上で、彼女がいて、他の女の子には見向きもしない。運動神経抜群で、優しさも可愛さも、全部を兼ね備えてる、「推し」。私にとっては韓国アイドルそのもので、私は彼に手を振ってもらったり話しかけてもらえたりとそれだけで嬉しかった。「ファンサもらえた」「認知された」とぬるま湯のような幸せにいつも私は心地よく酔っていた。

浮ついた言葉に騙され、「都合の良い女」という領域に足を踏み入れた

「俺ん家来る?」と耳元で二回。あの日は空が青く澄んだ、秋晴れの日だった。唇が綺麗で、抱きしめる力が強くて、可愛いと思った。
あの日に戻ったなら、私はなんと答えただろう。
壁に貼られた二人の写真はとても綺麗で、誰からも祝福されるものだった。私にとって初めてのキスは、彼にとっては何回目のキスだっただろう。「可愛い」に、一瞬の煌めきに、騙され続けて何回目のキスだったっけ。抱きしめられながら考える。可愛いね、が宙に舞う。
その時だけでも、は魔法だった。今やどんなに手を伸ばしてみようが、幻になった。

「推し」じゃなくて「好きな人」になってしまったから、電話したくてLINEしたくて、繋がりたくて仕方なくなってしまった。
「彼女とは別れないけど、君のことは可愛いと思うし、繋がりたいと思う」
浮ついた言葉に簡単に騙されて、「都合の良い女」という領域に足を踏み入れた。愛しているのは私だけだなんて、メロドラマによくある台詞を呟いてみたところで、綻んだものはもう繕うことが出来ない。
推しだった。ただそれだけ。一瞬の魔法で解けるもので、卒業したら、きっと済む話だ。私は今でも、それでもいつも、忘れることができないでいる。
ベージュのワンボックスが迎えに来てくれるところを想像して、来てくれたんだと笑う自分も、いつかはきっといるんじゃないか。期待してもすぐに壊れる。こんなことになるならば、最初からと泣く自分も、いつかはきっと忘れられるだろうか。

終わりにしなくちゃ生きていけないから、せめて自分の心は守ってやる

自販機の光に照らされた横顔を見ては、裏切られた気持ちになる。綺麗で仕方なかった。髪も、仕草も、全部泣けるほどに綺麗だった。愛されていたわけではない。好きでいてくれたわけでもない。気に入ってくれていたわけでも、気にかけてくれる優しさももうない。掬った手の温もりは、本物じゃなかった。

火傷してしまった。未だ消えない水膨れを眺めて、みみず腫れをなぞっては、独りで泣いている。名字に名前をくっつけては、お似合いだなんて考えて、背中越しの綺麗な写真を思い出してしまう。透明な関係。
わざと名前を呼んで隣を歩くから、すれ違う時は目を逸らすことしか私にはできない。名字に名前をくっつけてはあの夜の事を思い出してしまう。綺麗な彼はずっと、あの綺麗な彼女のものだった。

だから前を向くふりだけはすることにした。終わりにしなくちゃ生きていけないから、せめて自分の心だけは守ってやることにした。私は誰も守れなかったから、せめて強がることにした。
スコア表のとめはねはらいまで愛せてしまうほどに好きだったけれど、魔法では解けなかったから、離れることにした。

もう立ち上がれない、もう頑張れないとどんなに涙をこぼしても、「頑張れ」「頑張ろう」と言ってくれる人たちがいるから、私は守ることにした。
幸せだけは祈りながら、私は新しい空を見つめる。大きく手を挙げて、空に向かって、誓いの言葉を呟いた。
いつも、とても綺麗だった。さようなら、そしてありがとう。