私は、飛んだ。
群馬県某所。
山の中の、靄がかった橋の上から、平たいロープをつけて、スタッフのお兄さんにカウントダウンされて。
いざ!
ぴょーんと飛び降りて、その時思った。

あれ、死ぬかも。
待って、死にたくない。

諦め続けた2021年だけど、チャレンジせず一年を終えたくない

様々あった人生の中で、死、というそれに、一番近づいた瞬間だった。
そもそもバンジージャンプを飛びたいと言い出したのは、私自身だった。
2021年。コロナで、沢山のことを「しょうがないから」と諦めた。
私だけじゃない。みんなが、しょうがないから、どうしようもないから、と唇を噛んだ。何かを始めることに、周囲からの目という新たなリスクが常にあった。
それでも、新しいことにチャレンジせず一年を終えたくなかった。

秋の真ん中あたりで、実はバンジーを飛んでみたくて、と同じ大学の親友に漏らすと、彼女は同行を快諾してくれた。その上、車を運転出来る友達にも話を通してくれた。
かくして、当日。
住んでいる場所から1時間以上かけて、バンジージャンプが飛べる山奥まで移動した。器具の説明や体重の測定、引き上げ時の合図などを聞きながら、緊張と興奮が止まらなかった。背中は汗でびしゃびしゃだった。
その後。飛ぶスポットに移動した。
15分ほどで、私と、私の親友と、車を出してくれた友達。3人共飛んだ。呆気なかった。とにかくスムーズで、全員、カウントダウン通りに飛んだ。

本当に死ぬかもしれない場面で、私はどうしても死にたくなかった

……それは、もう、凄かった。
落下していたのはほんの2〜3秒なのに、その間に、色んなことを考えた。
風の音が、びょおっと耳を通っていく。
下に流れる川が私に迫ってくる。
落ちてく、落ちてく、と冷静な感想が頭の片隅を滑っていく一方で、思っていた。

死にたくない!
死にたくない!
死にたくない!

……死にたくなかった。
本当に死ぬかもしれない場面で、私は、どうしても死にたくなかった。

それまでの人生で、死にたかったときは、数度あった。
一番古い記憶だと、小学校でいじめを受けた時。それから、勉強がうまくいかなかった時。母親とうまくいかなかった時。何もないけれど、無力感で、ただ漠然と悲しくて、死にたい夜もあった。
大学生になってからも、自分の生死に、他の人ほど興味がない自覚はあった。死ぬことだって、怖くなかった。程々に生きて、ちょうどいいところで、誰かに迷惑をかける前に死にたいな、程度だった。

そうやって構えていたのが、ぶち壊された。
死にたくない、と思える自分がまだ残っていたのが、存外嬉しかったのかもしれない。
バンジーを飛んだあとは、身体中、関節という関節がだるかった反面、気持ちは随分すっきりしていた。

生きていた。
飛んだ瞬間の私も、今の私も、ものすごく、生きていた。
死ななくてよかった。
素直にそう思えた。

現実が甘くなくても、やりたいことを曲げないで戦う覚悟を決めた

年が明けた。
これを書いている今、2022年の1月だ。
大学3年生の私は、これから、就活という大きな山を迎える。
最初は、就活ってそんなに大事なのか?と思っていた。うつになる就活生、なかなか内定が決まらず悩む就活生もいると聞き、怖くもなった。セミナーや就活講座にも出た。地に足をつけろと言われて、現実が甘くないことも知った。

その上で、私は、いっぱい傷ついて、いっぱいムチャをして、何社も落ちて、ぼろぼろになりたいと思っている。簡単にいかなくても、やりたいことを曲げないで闘う覚悟を、決めた。

就活は、私が生きていくための方法を見つける活動だと思った。人生をやっていくためには、お金が必要だから、稼げるように、学生たちが苦労しないように、学校の先生たちは、高い場所を望みすぎないよう、忠告してくれる。それは正しくて、ただ、それだけがすべてでもないと思っている。

私が生きていく方法は、私が自分で見つけないと意味がない

私は、幼少期から本が好きだった。
小学校でいじめられたときも、図書室だけは、私をやさしく静かに受け入れてくれた。ドアを開けた瞬間の、ひだまりと古い紙がまざりあった匂いが、大好きだった。
今でも、家は小説や詩集、漫画だらけで、紙で買ったものを電子書籍でも買ったり、電子書籍で良かったものを紙で買い直したり、同じ紙の本を二冊持っていたりする。

本がとにかく好きだ。
将来は、誰かを元気にする本をつくりたい。
ずっと思い続けていたことを、現実にできるかどうかは今年の私にかかっている。
前までは、つねに、妥協する選択肢を視野に入れていた。これがダメならあれでもいいか。そうやって、自分の気持ちと本当に向き合わないまま年齢を重ねてしまった。
今やらなければ、もう、一生、自分の気持ちと向き合うことなんてないだろう。
だから、私は、私自身とちゃんと話をする。
私が生きていく方法は、私が自分で見つけないと意味がない。
そう、わかった。気づけた。
バンジージャンプに挑戦して、よかった。

ちなみに、私がバンジーした際の映像を友人に見せたら「足がバタついてるね。生を感じる」と言われた。
私は、まだ生きていたい。力強く。
2022年は、満身創痍になる。
そうして、もし就職が決まったら、またバンジーを飛びに行きたい。
前より高い場所から飛んで、思いっきり「楽しい~!」って笑ってやりたい。